⸻第二十三章 枯死病の謎
石板は縄文時代の教科書を見て思いつきました。
「ここが、枯死病が発生している区域だ」
リーファに案内された森の一角は、周囲の生き生きとした緑とは対照的に、木々が黒く朽ち、まるで死の気配が漂っているようだった。
「これは、酷いですわね……」
アリシアが痛ましげに周囲を見回す。
「わたしも、こういう『不自然な死』の匂い、感じたことがあります。純血同盟が獣人街を襲撃した時と、似た気配が……」
ケインが同行してくれたことで、リルの代わりに斥候として役立っていた彼が、周囲を注意深く調査し始めた。
「ここに、何か埋まっている痕跡がありますね」
「掘ってみよう」
地面を掘り返すと、翡翠の迷宮で見つけたものと酷似した、呪いの紋様が刻まれた石版が発見された。
「やっぱり、純血同盟の仕業だったか……」
「これは、『呪詛の楔』と呼ばれる呪術道具ですわ。土地に呪いを打ち込み、周辺の生命力を吸い上げる代物ですの」
ヴィクトリアが石版を検分しながら説明する。
「解除する方法はあるのか?」
「本来であれば、高位の浄化魔法が必要ですわ。ですが……」
ヴィクトリアは少し言い淀んだ。
「わたくしたち吸血鬼の血には、呪いを浄化する特殊な力が備わっておりますの。ただし、それを使うには」
「使うには?」
「わたくしの血を、直接この楔に捧げる必要がございますわ」
「そんな、危険じゃないのか?」
「多少の代償はございますけれど、命に関わるものではございませんわ。ご心配なく」
ヴィクトリアは自らの指先を軽く傷つけ、滴る血を石版に垂らした。すると、石版に刻まれた呪いの紋様が、まるで溶けるように消えていく。同時に、周囲の枯れた木々に、僅かながら生気が戻り始めた。
「これは……!」
「完全な浄化には少し時間がかかりますが、これで枯死病の進行は止まるはずですわ」
「ヴィクトリア、ありがとう」
「お礼はいりませんわ。わたくしも、この森の平穏を守りたいと思っておりますもの」
その様子を見ていたリーファが、驚いたように呟いた。
「吸血鬼の……力で、森が救われるとは……」
彼女の中で、これまでの固定観念に、小さな変化が生まれ始めているようだった。
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