⸻第二十一章 国境を越えて
ついにエルフが登場します。これから物語の展開が変化します
「わあ……! 見てくださいレオン様、あの森!」
馬車の窓から身を乗り出したミアが、歓声を上げた。王国の国境を越えた先に広がっていたのは、樹齢千年を超えるとも言われる巨木が立ち並ぶ、幻想的な森だった。
「あれが、エルフの民が暮らす『銀葉の大森林』ですわね」
アリシアが手元の地図を確認しながら言う。
「大陸親善使としての最初の目的地が、ここか」
レオンは馬車を降り、森の入り口に立った。木々の間から差し込む陽光が、まるで銀色の粒子のように輝いている。
「エルフの方々は、人間に対してかなり閉鎖的だと聞いたことがございますわ。歓迎されるかどうか……」
「わたくしたち吸血鬼とも、あまり良好な関係とは言えませんもの」
ヴィクトリアが扇子を弄びながら、少し憂いを帯びた表情を見せた。
「大丈夫だろ。俺たちは融和のために来たんだ。誠意を持って接すれば、きっと分かってくれる」
「レオン様は、いつも前向きですね」
斥候のケインが苦笑しながら言う。彼は元々冒険者ギルドの案内人として同行していたが、旅を重ねるうちに、すっかりパーティーに馴染んでいた。
「悲観してても仕方ないだろ。行こうぜ」
一行は森の中へと足を踏み入れた。しばらく進むと、木々の間から複数の気配が現れる。
「――止まれ、人間ども」
弓を構えたエルフの戦士たちが、一行を取り囲んだ。長い耳と、透き通るような美しい容姿は、人間とは明らかに異なる神秘的な雰囲気を纏っている。
「我々は王国からの使者だ。敵意はない」
レオンが両手を挙げて敵意がないことを示す。
「人間の使者だと? 我らの森に、何用だ」
戦士たちのリーダーらしき女性エルフが、警戒心を露わにしながら問いただす。
「俺はレオン・レイヴンフォード。王国から『大陸親善使』としての使命を受け、人間と人ならざる者の融和のために各地を巡っている」
「融和、だと? ふん、人間の言うことなど信用できるものか」
女性エルフの声には、深い不信感が滲んでいた。
「その反応も無理はございませんわね……」
アリシアが小声で呟く。長年の歴史の中で積み重なった不信は、簡単には解けないものなのだろう。
その時、森の奥から、もう一人の人物が姿を現した。
「待て、リーファ。その者たちの話、まずは聞いてみようではないか」
現れたのは、白銀の長い髪をなびかせた、威厳のある佇まいの老エルフだった。
「族長様……!」
リーファと呼ばれた女性エルフが、驚いたように後退る。
「私はこの森の族長、エルドウィン。人間の若者よ、そなたの名を、もう一度聞かせてもらおうか」
「レオン・レイヴンフォードです。族長殿にお会いできて光栄です」
エルドウィンは、レオンの首元のゴールドのネックレスに、じっと視線を注いだ。
「その首飾り……。まさか、そなたが噂の『黄金の使徒』か」
「ご存知なのですか?」
「我らエルフの古い伝承にも、その存在は記されている。千年に一度現れ、世界の均衡を左右する者、とな。……面白い。話を聞こうではないか、我が集落にて」
こうして、レオンたち一行はエルフの集落へと招かれることになった。
よろしくお願いします




