【2話】決闘のトリガー
スライムを連れたまま、しばらく木の根元に腰を下ろしていた。
あらためて考える。
さっきの、あの白い空間は何だったのか。
頭に響いた声は、確か『決闘条件の成立を確認しました』と言っていた。
決闘。
俺のスキル名は【決闘者】。
偶然とは思えない。
(あれは、俺のスキルが発動した結果ってことだよな……)
だとすれば、気になるのはトリガーだ。
あの時、俺は「決闘者ってなんだよ」と呟いた。
それだけで発動したのか、それとも何か別の条件が重なったのか。
スキル名をそのまま言えばいいのか。
それとも「決闘」という単語自体に反応するのか。
試したいところだが、下手に唱えて知らないモンスターと再戦になるのも困る。
今の装備は、粗末な剣一本だけだ。
そんなことを考えていた、ちょうどその時。
茂みの向こうから、ぬるりと青い影が姿を現した。
スライムだった。
先ほど倒したものとは別の個体だろう。
この森には、案外数が多いのかもしれない。
(ちょうどいい。試してみるか)
多少の緊張を覚えつつ、俺は口を開いた。
「決闘」
言った瞬間、頭の中に例の声が響いた。
『決闘条件の成立を確認しました』
視界が白く塗り替えられる。
気づけば、また例のリングの中に立っていた。
目の前には、先ほどのスライムがぷるぷると揺れている。
(やっぱりこれだ。単語一つで発動するのか……)
単純と言えば単純だが、逆に言えば、意図せず口にしてしまえば、いつでも戦闘に巻き込まれかねないということでもある。
厄介な仕様だ。
カァン、とゴングが鳴る。
スライムが飛び掛かってくる。
剣を構えたところで、視界の端に見慣れないものが映った。
リングの外、白い空間の一角に、緑色の数字が浮かんでいる。
04:47
数字は、見ている間にも1ずつ減っていく。
(時計……いや、残り時間か)
そういえば、前回もこんなものがあったのだろうか。
無我夢中で気づく余裕がなかっただけかもしれない。
とにかく、この決闘には制限時間があるらしい。
剣を構えかけたところで、ふと思いついた。
(そういえば、こいつも呼べるんじゃないか?)
腰のケースから「スライム」のカードを取り出し、念のためにと呟いてみる。
「スライム」
カードが淡く光り、俺の隣に、先ほど仲間にしたばかりのスライムが実体化した。
(本当に呼べた……。てことは、リングの中でも召喚できるってことか)
思わぬ発見だった。
これなら、自分が矢面に立たなくても、手持ちのモンスターに戦わせることができるかもしれない。
そう考えた俺は、期待混じりに命じてみた。
「攻撃しろ」
俺のスライムが、のそりと動いて、野生のスライムに体当たりする。
ぼふん、と間の抜けた音がした。野生のスライムも負けじと体当たりを返す。
ぼふん。
ぼふん。ぼふん。ぼふん。
ーー何も起こらなかった。
どちらも大したダメージを与えられないまま、ただ交互にぶつかり合うだけの、間延びした光景が続く。
よく考えれば当然だ。
木を揺らす程度の威力しかないスライムが、同じスライム相手にまともなダメージを与えられるはずもない。
ちらりと数字に目をやる。
03:12。
(このままだと、時間切れになる……!)
このリングが「制限時間内に決着をつけないと不利になる」ものなのか、単に時間切れで終わるだけなのかは分からない。
だが、確かめている余裕はなかった。
仕方なく、俺は自分のスライムを呼び戻すことにした。
地面にカードを置くと、ぶつかり合っていたスライムがのそのそと戻ってきて、カードの上に乗る。
吸い込まれるようにして、姿が消えた。
残ったのは、野生のスライム一体。
ここまで来れば話は早い。
俺は剣を構え直すと、無防備に立ち尽くすスライムへと斬りかかった。
何度か剣を叩きつけると、体が弾け、地面には見覚えのある小さな石だけが残る。
数字は、02:38を示していた。
白いカードが浮かび上がり、石に重なって吸い込まれていく。
カードの表面に、スライムの絵が浮かんだ。
肩の力を抜いて、その場に座り込む。
リングと白い空間が消え、森の景色が戻ってくる。
(トリガーは分かった。でも、モンスター同士をぶつけるのは、少なくとも同格同士だと意味がないってことか)
手元の二枚のカードを見つめながら、俺は小さくため息をついた。
分かったことよりも、分からないことの方が、まだまだ多そうだった。




