5.中の人
ボタンの下に表示された「販売中止」の文字を、私は呆然と見つめていた。
「売切れ」ではなく「販売中止」。
焼きたてパンも、串揚げも、葡萄もオークシチューも何もかも。
食べ物という食べ物が「販売中止」になっている。
「え。これいつ販売再開するの?」
幸い、井戸水はまだ売っているけれど、これだっていつなくなるか……。
と、思った途端。
「汲みたての井戸水」のボタンも暗くなり、その下に「販売中止」の文字が出た。
――詰んだ。
私は膝から崩れ落ちた。
こんなことなら、パンも水も、ある時に買えるだけ買っとけばよかった……!
へたり込んだ私の背後を、今日も石の巨人がゆっくりと通り過ぎていく。
……ズシン!
……ズシン!
――……ツーーー……。カチッ。カチカチカチッ。
自販機の中から、これまでついぞ聞いたことのない音がした。
見れば、それまで表示されていたボタンの一つが明滅している。
山刀(中古) 6,000G
の文字が消え、ボタンが暗くなったかと思うと、しばらくして違う文字が現れた。
大容量モバイルバッテリー 10,000G
「えっ」
一瞬、脳がバグるというか。
え、ここって異世界だよね。
スマホもタブレットもないはずだよね?
呆然とその文字を見つめていると、再びボタンが明滅した。
大容量モバイルバッテリー(超特価) 10,000G
いや、超特価て。
ここでバッテリーなんか買ってどうしろと。
内心ツッコミを入れてたら、またまた文字が変化した。
大容量モバイルバッテリー(夏のボーナス先取りセール) 10,000G
「………………」
これは、もしかして。
「私個人に勧めてる……?」
自販機の向こうにいる「中の人」。
商品名のチョイスからして、まず間違いなく転生者だ。
その人が、ここにいる私も転生者だと、カードの名前で気がついたのだとしたら。
転生者にだけ通じる言葉で、何か違う物を送ろうとしてるとしたら……。
「いや。でも10,000Gはさすがにきびしいわー……」
今の私の全財産は10,832G。
これを買ってしまったら、832Gしか残らない。
大丈夫なの?
どこの誰かもわからない、会ったこともない人を信じていいの?
迷う私の目の前で、急かすように文字が明滅する。
大容量モバイルバッテリー(長期生存保証!) 10,000G
「だーっ! わかったわよ! 買えばいいんでしょ、買えば!」
カードをスロットに突っ込むと、購入ボタンが点灯する。
「これで本当にバッテリーが出てきたら、スキルで自販機ぶっ壊してやるから!」
覚悟を決めてボタンを押すと、これまで同様、開口部の蓋がぱかりと開く。
そこに入っていたものは――……。




