57.姉妹
(――は?)
絶句した私の前で、幼女王が苛立ったように小さな翅をブブッ! と震わせた。
「何をぼうっとしているの? 妾はすぐにも新しい〈石の巨人〉が要るのよ。でないと……」
「あらあら。珍しく人の子がいるというから来てみれば」
嘲るような声が背後から響いた。
膝をついたまま振り向けば、玉座の間の入口に、背の高い少女が一人立っている。
蜂の頭部を象った半仮面に、豊満な肉体を包む薄水色のドレス。背に畳まれた四枚の翅は膝裏に達するほど長く、二対の腕はすんなりとたおやかだ。
玉座の幼女王が小学校低学年くらいの見た目なのに対し、こちらは高校生くらいの背格好だった。
(幼女王のお姉さんかな?)
全体の雰囲気がよく似てる。
(……ん? でもさっきの紹介では『第一幼女王』って言ってたよね)
「テルティア……っ!」
玉座の幼女王が唇を噛みしめた。
壁際に控えていたクインゲンテシマが弾かれたように直立し、右側の二つの拳を胸に当てる。
「第三幼女王、〈テルティア・ケンテシマ・セクスタ〉殿下……!」
「お久しぶりね。プリマ」
テルティアと呼ばれた少女は、私たちの傍らをすたすたと通り過ぎ、躊躇なく玉座に近づくと、背もたれに肘をついて幼女王を見下ろした。
「お可哀想なプリマお姉さま。その様子では、今代も女王になるのは難しそうね?」
◆◆◆
壁際に寝棚が二つあるだけの殺風景な小部屋。
そこに案内されるや否や、ノルドはぐったりと寝棚に座り込んだ。
「うう。えらい目に遭ったっぺ……」
「ほんと。まだ耳ががんがんするわ」
あの後、玉座の間では壮絶な姉妹喧嘩が始まった。
『はあ? プリマの直系を舐めてもらっては困るのだわ!』
『ええ、ほんとにお気の毒。そのせいで一番ボロ……いえ、旧式の庭園があてがわれたのですものね』
『庭園の仕様は一律なのだわ。そんなことも知らないなんて、テルティアの系はお頭に問題があるのかしら』
『お黙り、ちんちくりん』
『そちらこそ口を慎むがいいわ、お胸だけのからっぽ頭!』
『何ですってぇ!』
二人がエスカレートするにつれ、その言葉は次第に早口に、声は高くなっていき、しまいには「クィィィィィィ――――!」という頭の中を直接引っ掻き回されるような高音域のパルス音に、私とノルドは耳を押さえて悶絶した。
クインゲンテシマが幼女王たちの間に割って入り、私たちを連れ出してくれたからいいようなものの、あのままあそこにずっといたら、一体どうなっていたことか……。
そのクインゲンテシマは今、部屋の入口に立ち、心なしか申し訳なさそうな顔で私たちに頭を下げていた。
「今代ノ女王ハ〈テルティア・ケンテシマ・クインタ〉陛下。テルティア・ケンテシマ・セクスタ殿下ト同系ノ女王デアラセラレマス」
むむむ。
第一幼女王と第三幼女王がいて、第三幼女王の方が現女王の直系とな。
「つまり、第一幼女王は〈第一〉とはいえ傍流ってこと?」
人間の王家でもよくある話だ。
正妃の子と側妃の子が王位を争い、負けたほうが傍流の家系になる。
「傍流、トイウノガヨクワカリマセンガ。〈プリマ〉ノ女王ハ永ラク出テオラズ、殿下ハソノコトヲ気ニ病ンデオラレマス」
「そらそうと、シムスにはいつ会わせてくれんだっぺ?」
ノルドが豪快に話をぶった切って訊いた。
「そうよ。そもそも私たち、シムスを探してここへ来たのに、何で幼女王と話す流れになったわけ?」
「ソレハ、私ガ殿下ニソウスルヨウニオ勧メシタカラデス」
クインゲンテシマの背後から、黒のテールコートに縞のトラウザーズをぴしりと着込んだ人影が現れた。
「「シムス!」」
異口同音に叫ぶ私達に、シムスは恭しく一礼してみせる。
「プリマゴーレムノ消滅ニヨリ、殿下ハ〈強壮剤〉ノ供給源ヲ失イマシタ。私ハアナタ方ニゴーレムヲ再建シテイタダキタイ。ソシテ殿下ノ悲願ヲ叶エテイタダキタイノデス」




