58.コーディアル
シムスの話をざっくり言えば、こうだった。
〈庭番〉には、毎世代九人の幼女王が誕生し、そのうち最も大きく強く成長した者だけが次代の女王となる。
そのために絶対欠かせないのが〈強壮剤〉――ゴーレムの庭園に咲く花々の花粉と蜜から作られる女王専用の飲み物だ。
(あー。前世で言うところのローヤルゼリー的な)
私は密かに納得する。
「強壮剤ハ幼女王ヲ大キク成長サセ、強イ翅ト強靭ナ肉体ヲ作リマス。デスガ、数代前ノ女王ノ時代、プリマゴーレムニウィングエイプガ入リコミ……」
〈庭番〉達は、サルどもに邪魔されて、思うように花粉や蜜の採取ができなくなった。
「ソノセイデ、第一幼女王殿下ハ数代続ケテ成長ガ阻害サレ、今モアノヨウナオ姿ノママナノデス」
それまで黙って聞いていたノルドが口を開いた。
「けんど、その〈強壮剤〉とやらは、花粉と蜜さえありゃ作れんだっぺ? なら別にゴーレムに頼らねぇでも、花さえありゃどうにかなるんでねぇの?」
「イイエ」
と首を横に振ったのは、クインゲンテシマだった。
「ゴーレムノ庭園ノ地下ニハ〈強壮剤〉ヲ醸スタメノ醸造所ガアリマス。ズット昔、〈プリマ・プリマ〉陛下ノ時代ニ、人ノ子ノ手デ作ラレタモノデス。アロウコトカ、サルドモハ醸造所ニマデ入リ込ミ……」
「えっ」
私は思わず声を上げた。
庭園の地下の醸造所って、あれよね。
〈僕〉こと錬金術師のフラム・フルカネリの亡骸があった――……。
――てことは、ですよ。
ふいに、ある可能性が脳内に閃く。
もしかして〈強壮剤〉って〈万能薬〉のことなんじゃないの!?
「ソウイエバ、アノ男ハ、出来損ナイノ〈強壮剤〉ヲソンナフウニ呼ンデイマシタネ」
私の質問に、シムスはあっさり頷いた。
「アノ程度ノモノヲ〈万能〉ト称スルトハ、人ノ子ハツクヅク度シ難イ」
やっぱり――!
◆◆◆
「ううう……」
ノルドが頭を掻きむしって嘆いた。
「あん時、俺がもっと良ぐあん機械さ観察しておけば……!」
「いや、それはしょうがないよ」
私はノルドを慰める。
「あの時は私達、どっちもフラムの幻燈のほうに気を取られてたんだしさ」
そのフラムは、かつてたまたま地下室に来ていたシムスに出会い――「正確ニハ、十代前ノ私デス」とシムスは言う――古代人の遺物を見つけて狂喜したという。
ウィングエイプに壊されたアーティファクトを復元し、完璧ではないものの〈強壮剤〉の再現にまで漕ぎつけた彼は、まぎれもなく天才だったに違いない。
「けんど、どのみちあん機械はゴーレムごと砂んなっちまったし……っ!」
はっ、と何かに思い当たったように、ノルドが顔を上げた。
うん。私も多分、同じことを考えてる。
「シムス。ゴーレムは幼女王の数だけいるのよね?」
「ハイ」
つまり、砂になってないゴーレムがあと八体。
ノルドが目をきらきらさせて頷く。
「んだら、そこん地下室にはまともに動く醸造機械がまだ残ってるはずだっぺ!」
「てことは、そこに行きさえすれば?」
私達は顔を見合わせてにんまりした。
「万能薬が手に入る!」
「今度こそ、アーティファクトの仕組みをがっつり研究できるっぺ!」
……って、そっちかーい!
――と、私がツッコミを入れようとした時だった。
ィィィィィ――――
どこからか、耳鳴りのような高周波の音が聞こえてきた。
クィィィィィィィ――――
「これって……」
頭の中を直接引っ掻き回されるような高音域のパルス音。
「さっきの姉妹喧嘩、まだ続いてたの?」
けれど、クインゲンテシマとシムスは警戒するように翅も触覚もぴんと逆立てていた。
「違イマス。コレハ……」
シムスの声は震えていた。
「コレハ〈戴冠飛行〉ノ合図デス」
クインゲンテシマが顔を上げ、右側の二つの拳を胸に当てて厳かに言う。
「タッタ今、〈テルティア・ケンテシマ・セクスタ〉殿下ガ次代女王トナラレマシタ!」




