56.幼女王
すかさずクインゲンテシマの命令を受けた衛兵たちが私とノルドを抱え上げ、横穴の前まで飛んでくれた。
入口こそ天然の洞窟のようだが、中は整然とした六角形の通路で、床から天井までつるつるに磨き上げられている。
「ココダ」
そこは、両開きの巨大な六角形の扉の前だった。
クインゲンテシマが合図すると、両脇に控えていた二人の衛兵が扉を開ける。
「〈プリマ・ケンテシマ・セクスタ〉殿下。客人ヲオ連レイタシマシタ」
扉からまっすぐ伸びた一筋の道の突き当たりに、玉座に掛けた小さな人影。
とたんにノルドが目に見えておたおたし始めた。
「ど、どうすりゃいいっぺ。俺、お城のマナーなんて知らねっぺよ!」
「大丈夫よ。とりあえず下を向いたまま歩いていって、『止まれ』って言われたらそこで膝をついて待ってれば、向こうから声を掛けてくるわ」
少なくとも、人間の王宮ではそうだ。
間違ったとしても、私達はここでは異国人……どころか種族さえ違うんだもの。そのくらい大目に見てほしい。
私たちはしずしずと玉座の前の道を進み、クインゲンテシマの「ソコマデ」という声で、俯いたまま膝をついた。
ややあって、玉座のほうから子どもっぽい声が聞こえてくる。
「おまえたち。いつまで下を見ているつもり? それじゃ顔が見えないのだわ」
つまり顔を上げてもいいってことだ。
私は背筋を伸ばし、玉座に座る「幼女王殿下」を初めて見た。
(人間……?)
大きな玉座にちょこんと腰かけ、脚をぶらぶらさせていたのは、ノラより小さな女の子だった。
蜂の頭部を模した半仮面から、口許だけがのぞいている。
透けるような白い肌。桜色の小さな唇。それらは紛れもなくヒトの造形だ。
さっきの声が、クインゲンテシマのそれよりずっと人間っぽかったのはそのせいだろう。
けれど、クリーム色のあえかなレースを何枚も重ねたドレスの背には小さな四枚の翅があり、華奢な胴体には二対の腕が生えていた。
「ふうん。ずいぶん小さいのね。人の子って、昔はもっとずっと大きかったのに」
幼女王殿下は私たちをじろじろ眺め回した挙句、馬鹿にしたようにそう言った。
「そりゃ、ジルはまだ子どもだかんな。それに俺は岩小人だっぺ」
「ちょ、ちょっとノルド!」
王族に話しかけられてもいないのに口をきくなんて、とんでもないマナー違反だ。下手をすれば不敬罪で罰されてしまう。
案の定、幼女王殿下はむっと唇を尖らせ、ノルドを睨みつけた。
「おまえ。雄のくせに生意気だわ」
けれどノルドは意に介したふうもなく、頭に手をやって「ははっ」と笑う。
「そうか、俺は生意気かぁ。そら、めんごい姫さんにえらいすまんことしたっぺなぁ」
「…………っ!」
幼女王殿下の頬がぽっと桜色に染まり、同時に唇の端がむずむずと動いた。
――まるで、にやけるのを必死に堪えているように。
(Oh……)
すごい。ノルドのお兄ちゃん仕草がすごすぎる。
そして幼女王殿下がチョロすぎる。
「と、とにかく! ここへ来たからには、おまえたちにも妾のために働いてもらうのだわ。おまえ」
そう言うと、幼女王殿下はまっすぐ私を指さした。
「新しい〈石の巨人〉を作りなさい。今すぐに」




