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ハズレスキル〈線〉が、引くほど強くなるんですが ~捨てられ転生令嬢の無自覚最強サバイバル~  作者: 円夢
第三章 万能薬

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55.門前

「……とにかく、シムスを探さなきゃ」


 しばらくしてから私は言った。

 フラムの地下室も万能薬の秘密もゴーレムごと消えてしまった今、残る手がかりはシムスだけだ。


「んだな」


 ノルドは頷き、砂に半ば埋もれた飛空板を「ふんっ」と引き起こした。そうして板の裏をのぞきこむなり、がっくりと肩を落としてため息をつく。


「こら思ってたよりひどいっぺ。飛空回路が完全に焦げっちまってる」

「修理できそう?」

「んにゃ。ここじゃ無理だっぺ。父ちゃんの工房なら予備の部品があっけども」

「つまり……」


 私は両側に切り立つ赤茶色の崖を見上げた。

 無数に開いた横穴。あの中のどこかにシムスがいる。


「あそこまで、登っていくしかないわけね」


 ――とはいえ。


 穴の脇に立つ、軍服を着た蜂頭の女たち。

 果たして、彼女たちは私たちをすんなり入れてくれるだろうか?


◆◆◆


 結論から言うと、私たちは崖を登ることすらできなかった。


 一番低い位置にある横穴を目指し、手近の岩のでっぱりに手をかけた途端、頭上から次々に飛んできた蜂頭の女たちに、あっという間に取り囲まれてしまったからだ。


「何者ダ。ココハ畏レ多クモ第一幼女王殿下ノオ住マイナルゾ」


 中でも一際背の高い女性が鋭い声で誰何する。


(あ。この感じ、何か懐かしい……)


 今となっては、ずいぶん昔に思えるけれど。

 私がまだ伯爵令嬢だったころ、王宮や伯爵家の門前に立ってた衛兵たちもこんなふうだった。


 すかさず前に出ようとするノルドを手で制し、私はかつて王妃様にも褒められた完璧な宮廷礼(カーテシー)を披露した。


「大変失礼いたしました。こちらはハーキ族の族長ニルドが長子ノルド、私はジルと申します。こちらには、ある方を訪ねて参りました」

「衛兵隊長ノ〈クインゲンテシマ(500番目の)・ミッレーシマ・セクサゲ(1060代)ーシマ〉ダ」


 そう言うと、衛兵隊長の女性――クインゲンテシマ――は四本ある腕のうち、右側の二つの拳を胸に当てて会釈を返してくれた。


「シテ、誰ヲ訪ネテオイデニナッタ?」


(うっ……!)


 まずい。

 貴族社会において、相手の地位や名前を忘れたり言い間違えたりすることは、致命的なマナー違反だ。

 だけどあんな長ったらしい名前、いっぺん聞いたくらいじゃ覚えられない。


「ええと、私達は彼を〈シムス〉と呼んでいましたが……」

「〈ノンゲンテシムス・トリケシムス・クアルトゥス(934番目の)・クィーンクィエス・ミッレーシムス・トリケンテシムス(5300代)〉だっぺ」


 言い淀んだ私の横で、ノルドがすらすらと言ってのけた。


(嘘っ! ノルドってば、あの一瞬で全部覚えたの!? すごくない?)


 内心めちゃくちゃ感動しつつも、ここは何食わぬ顔でにっこりしてみせる。

 一方、シムスの名前を聞いたクインゲンテシマは――蜂の顔でどうしてそう見えたのか謎だけど――ものすごく微妙な顔になった。


「〈居候(フークス)〉ニ? ……マアイイ。ココデ待ッテイロ。幼女王殿下ニオ伺イヲ立テテ来ル」


 クインゲンテシマはぶうんと羽音を立てて舞い上がり、後には私とノルド、そして全く同じ顔、同じ体つきの女性たちが残された。


 いや、よーく観察すれば違うのかもしれないけどね? 何しろ全員蜂の顔だからね?


(――ん?)


 よくよく見たら、軍服姿の女性たちの背中に隠れるように、彼女たちより一回り小さなメイド服姿の女の子――もちろん、蜂頭の――たちが何人か、ちらちらとこちらを窺っていた。

 直立不動の衛兵たちとは違い、女の子たちは隣同士でさかんに触覚と触覚を触れ合わせている。

 えー、何あれ。内緒話? てかメイド服可愛い。


 ややあって戻ってきたクインゲンテシマは、私達の前に優雅に降り立つと、軽く頭を下げて言った。


「客人方、コチラヘ。〈プリマ・ケンテシマ・(1番目の106代)セクスタ〉第一幼女王殿下ガオ会イニナル」

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