幕間 ルーター
身の丈100メートルはあろうかというゴーレムが崩落した瞬間、物陰から大きな歓声が上がった。
「嘘だろ。信じられねぇ! 石の巨人っつったらAランクじゃねぇか!」
「それをまさか、俺らみたいな弱小パーティが倒せたなんて……」
「夢を見ているようですわ!」
手を取り合って喜んでいるのは、Cランクパーティ〈緑の弓兵〉の面々だ。
戦士のリーダーを筆頭に、盾役の重騎士、後衛の魔法使い、回復役の女僧侶という標準的な四人構成。
彼らは、カーマイン伯爵が出した一斉討伐要請に応えてカーマイン迷宮に入ったものの、運悪く〈妖精の輪〉、すなわち自然発生した転移門に踏み込んでしまい、ここに飛ばされてきたのだった。
「目の前にゴーレムが出てきたときは、もう駄目かと思ったわ」
「俺も俺も! けどまさかリーリィの魔法があんなに効くなんてな」
「うふふ。運が良かっただけですわ」
実際は彼女の魔法ではなく、単にゴーレムの稼働期間が過ぎて自壊しただけだが、それを知るすべは彼らにはない。
と、その時、彼らの背後からぱちぱちと拍手の音が聞こえてきた。
「素晴らしい! たった四人でAランクモンスターを討伐とは。今回の討伐対象の女王相のウォーアントより格上だ。地上に帰れば君らは英雄だよ、間違いなく」
「……っ! 誰だ!」
一斉に振り向く〈緑の弓兵〉。
そこにいたのは、十人ほどの冒険者の集団だった。
前衛らしい前衛はおらず、そのほとんどが狩人、盗賊、斥候など、明らかに俊敏性と機動力、それに隠密性を重視した構成だ。
「ま、地上に戻れればの話だけどね」
「貴様ら……略奪者かっ!」
先頭に立つ暗殺者の男がおどけたように言うのと、〈緑の弓兵〉が戦闘態勢に入るのがほぼ同時。
だが次の瞬間、リーダーの戦士は背後から刺され、魔法使いの胸に矢が突き立ち、女僧侶は喉を裂かれて絶命した。
ただ一人残った大柄な重騎士が、無言で巨大な盾を突き出し、面頬の隙間から暗殺者を睨み据える。
「あー、こりゃ硬いねえ。……てなわけで出番だ、ボマー」
「うおおおおおっ!」
にやにやしながらその場に立ったままの暗殺者に向かい、雄叫びを上げて重騎士が突進する。
――が。
ドムッ。
ふいに鈍い爆発音が聞こえ、重騎士の鎧の隙間という隙間から赤黒い血が噴き出した。
「ガ……ッ!?」
重騎士は前のめりに倒れ伏し、それきりぴくりとも動かなくなる。
「さてと」
四つの死体に背を向けて、暗殺者は、かつてゴーレムだった砂丘に歩み寄った。
「こいつの討伐を申告すれば、俺らも英雄になれちゃうけどねえ……。そういうのはちょーっとまずいんだよね、仕事的に。だろ?」
「間違いなく」
誰かが暗殺者の口真似で答え、複数の笑い声が上がる。
「じゃあ決まりだ。俺らは当初の依頼通り、黒髪紅瞳の娘を捜す」
「けどよ、その娘、本当にこんなとこまで来てんのか?」
集団の中から声が上がった。
「カーマイン迷宮の九層だぜ? 小娘一人でこんな深層まで辿り着けるもんかよ」
「さあな。けど依頼主様がそう言うんだ。捜すだけ捜してみるさ」
「ま、見つからなきゃ似たような歳の黒髪のガキを捕まえて、顔を潰して持ってきゃいいんだろ?」
そうだそうだ、と声が上がる中、暗殺者の男は「ちっちっち」と人差し指を振ってみせた。
「そう簡単にはいかないんだな、これが。小娘が死んでた場合、その眼球を証拠として持ち帰れとさ」
――紅色の眼球を持ち帰れば、五百万G支払おう。
「面倒な依頼だよ、間違いなく」
暗殺者の男は肩を竦め、彼方に見える峡谷に目をやった。




