53.崩壊
ノルドが素早く私と蜂のモンスター? の間に割り込んだ。
「誰、いや、何だっぺ、お前ぇは!?」
「狩人蜂……じゃ、ないわよね」
「心外デスネ」
相手は明らかに気分を害したようだった。
「アノヨウナ下等生物ト一緒ニシナイデイタダキタイ。我々ハ〈庭番〉デス」
「ケプロス……」
呆然と繰り返す私。
「ソシテ私ハ栄エアルソノ〈ノンゲンテシムス・トリケシムス・クアルトゥス・クィーンクィエス・ミッレーシムス・トリケンテシムス〉デス」
「いやごめん、何て?」
響きは何となく古代語? っぽいけど、長すぎて覚えきれないよ!
ケプロスのノン何とかは、あからさまに「ハア……」とため息をついた。
「デシタラ〈シムス〉デ結構デス。アノ男モ以前ノ私ヲソウ呼ンデイタコトデスシ」
私はぎゅっと目を閉じてこめかみを揉んだ。
何かもう情報量が多すぎて頭パァン! てなりそう。
喋る蜂。古代語っぽい長い名前。あと腕が四本。
「トコロデ、アノ男ハドウシマシタ?」
「あん男、ちゅうのはフラムのことだっぺ?」
私に代わって訊ねたノルドに、シムスは「ハイ」と頷いた。
「彼ト会ッテ話ヲシタノハ、10人前ノ私ガ最後デス。コノ庭ハホドナク消滅スルタメ、彼ガマダココニイルナラ知ラセニ来タノデスガ……」
その言葉を裏付けるかのように、足許からズズズ……と不吉な地鳴りが聞こえてきた。
同時に、周囲のあちこちに小さな魔法陣が次々生まれ、そこから庭園がさらさらと崩れていく。
「きゃっ!?」
がくん、と足許が崩れ、ぽっかりと開いた穴の中に落ちそうになった私の手を、間一髪でノルドが掴んでくれる。
「フウム。ドウヤラ、コノゴーレムハ人ノ子ノ攻撃ヲ受ケテイルヨウデスネ。ソンナコトヲシナクテモ、ドノミチ期限切レデシタノニ」
他人事のように言うシムスをよそに、ノルドは空いた方の手で魔法袋から飛空板を引っ張り出していた。
「乗れぇ、ジル!」
「うん!」
飛空板がふわりと舞い上がると同時に、足許の床がどっと崩れ落ちる。
――転移門!
私の顔から、さあっと血の気が引いた。
――このゴーレムが消滅したら、広場の転移門はどうなるの!?
転移門は毎年、夏の終わり頃に岩小人の山の麓に現れ、月が昇るように山頂まで移動するという。
『そっから今度ぁだんだん低くなってって、しまいにゃ地面の下に消えっちまうんだっぺ』
『……消えたら、どうなるの?』
『次に開ぐのは、来年の夏だっぺな』
もともと転移門が閉じる前には戻るつもりだった。
でも、その転移門そのものが消えてしまったら……?
「ノルド! 転移門!」
それだけでノルドにも通じたらしい。
「しっかり掴まれぇ! 飛ばすかんな!」
急発進した飛空板の下で、みるみる庭園が崩れていく。
果樹の林も、水盤も、ツリーハウスの大樹さえ、根本から砂色に変わり始めていた。
「ノルド……」
「わかってるっぺ!」
魔法陣の広場は、周辺からじわじわと砂色に侵食されていた。
その真ん中で、魔法陣はまだ白く輝いている。
――お願い、間に合って……っ!!
飛空板がさらにスピードを上げる。
その端がもう少しで魔法陣に触れる、その刹那。
ヴヴ……ッ
白く輝く外縁に砂色が到達し、魔法陣はぶれて消失した。




