52.遭遇
何個目かの白結晶を聴き終えて、私は目をこすった。毛布を敷いているとはいえ、座りっぱなしの腰が痛い。
ふあ、と大あくびをしたノルドが、それでも手を止めずに次の結晶に手を伸ばした時だった。
……ズン!
「うおっ!?」
くぐもった地鳴りのような音と共に、地下室がガタガタと揺れだした。
……ズン!
……ドズン!
はい来たー。〈石の巨人〉の朝のお散歩タイム。
(しばらく来ないでいるうちに、これのことすっかり忘れてたわ)
今回は地下にいるせいか、揺れはそこまで強くないけれど、天井からぽろぽろと土埃が降ってくるわ、せっかく集めた結晶がころころ床を転がっていくわで大変だ。
「ジル!」
ふいにノルドが恐ろしく真剣な声を出した。
「こっから出っぞ! 急げぇ!」
「え? この程度の地震なら大丈……」
言いかけた私のすぐ横を、ひときわ大きな天井の欠片が掠めていく。
「こん山鳴りは駄目な奴だっぺ! 岩の軋みが尋常じゃねぇ!」
怒鳴るように言うが早いか、ノルドは私を引っ張って立たせ、ハッチに続く梯子の方へとぐいぐい押していった。
ほうほうの体で梯子を上り、四阿の外に出た途端。
「――!」
四方の柱が内側に倒れ、四阿が丸ごと地下室の中に陥没した。
ようやく揺れが収まった後には、もうもうと立ち込める土埃と、落ち葉と土砂の塊があるばかりだ。
「……結局、埋葬してやれんかったっぺ」
ぽつりとノルドが呟く。
「そうね」
〈僕〉こと錬金術師のフラム・フルカネリの亡骸は、彼の遺した万能薬の秘密ごと地中に消えてしまった。
「で、でも! 諦めるのはまだ早いわよ。せっかくストーンゴーレムの頭のてっぺんにいるんだもの。もしかしたらどっかに天然の万能薬が……」
「はあっ!?」
ノルドが素っ頓狂な声を上げた。
「い、今何て言ったっぺ?」
「え? だから私たち、ストーンゴーレムの……あ、そっか」
転移門から来たノルド達は、ここが迷宮の中だということは知っていても、ストーンゴーレムの上だとまでは気づいていなかったに違いない。
「来て!」
私はノルドの手を引くと、果樹の木立がある方へ――城壁の方へと歩き出した。
◆◆◆
「うわあ……」
前に来た時は整然としていた果樹の林は、地面に落ちた果実や折れた枝で見る影もなく散らかっていた。
中には根こそぎ倒れている若木もあり、地下室ではさほど強く感じなかった揺れが、実はどれほど大きかったのかを物語っている。
前回私がよじ登った城壁にもあちこちヒビが入っており、一部は崩れて細い隙間ができていた。
私達は隙間に近づき、向こう側をのぞき見る。
前に来た時、ここからは、深い亀裂の入った赤茶けた大地が見えていたけれど……。
ブブッ!
ブブブブブ……
真っ先に目に入ったのは、黒い光沢のある大きな複眼だった。左右の複眼の真ん中に、蜂蜜色の単眼と、二本の太い触覚。
「コレハコレハ」
とそいつは言った。
「人ノ子ト岩小人トハ珍シイ。アノ男ハドウシマシタ?」
背中に生えた四枚の翅をブブブ、と震わせ、私たちの目の前でホバリングしていたのは――。
蜂の頭部を持ち、黒のテールコートに縞のトラウザーズをぴしりと着込んだモンスター……? だった。
しかも、腕が四本ある。




