51.錬金術師殺人事件
「『実はこの万能薬には明確なレシピが』――って、何でそこで切れるのよ!」
「まったくだっぺ! こっからが肝心なとこだのによう」
しょうもない映像に、ひとしきり文句を言い合った後。
ノルドがふと首を傾げた。
「けんど、妙だっぺ……」
「何が?」
「もしもこん錬金術師が万能薬のレシピさ見つけたんだら、万能薬は今ごろもっと出回ってるはずだっぺ?」
「確かに」
万能薬の存在自体は知られていても、市場に出ることはまずないといっていい。
見つかること自体が稀な上、それらはすべて王宮が高額で買い上げて、厳重に管理しているからだ。
「んにゃ? 俺がまだ子どもん頃は、普通に店で買えたっぺよ」
「ええっ!?」
「ずいぶん前の話だけんどな。ドラン商会っちゅうとこが大々的に売り出してよ。ひと月もたずに酢んなっちまうけんど、効き目は確かだっちゅうて、あん頃は皆買ってたっぺ」
「ドラン商会……」
肌身離さず身に着けている魔法袋に目を落とす。
あの「中の人」がいる商会が、万能薬を売っていた……?
「ともかく、他の結晶も確かめてみるっぺ。何かわかるかもしんねぇしよ」
気を取り直したようにノルドが言い、私たちは白い結晶――音声のみの結晶の中身を聴いてみることにした。
◆◆◆
白い結晶は二十個近くあったけど、大半は欠けていて再生できなかったり、元々音声が入っていなかったりで、結局、再生できたのは今のところ三つだけだった。
しかもその三つにも、ノルドの〈不純物除去〉でも取り切れない妙な雑音が入っている。
『縞のブブブッ………………集め……』
『……の配合……ブブブッ!……の蜜…蒸りゅ……ブブブッ!』
『ブブッ!……を希釈…………めだ………もたな……ブブブブブッ!』
「何だか虫の羽音みたい」
「こら結晶ん傷のせいじゃねぇな。元々ん声に雑音さ入ってるっぺよ」
「そうなの?」
そんな中、次にセットした結晶には、珍しくクリアな音声が入っていた。
『これで自販機の設置は終了だ』
『おお、すごいなフラム。この発明は冒険者たちの迷宮探索を一変させるぞ!』
『すごいのはエミール君のほうだろ。僅か七歳でこんなものを考えつくとは、末恐ろしい天才だ』
『よせよ。あいつのアイディアを形にしたのはお前だろ』
「待って。ちょっと、そこで止めて!」
慌てて割り込んだ私に、ノルドは困った顔をした。
「いや、こん機械、途中で止めるなんちゅう器用な真似はできねっぺよ」
幸い音声はそこまでだったようで、『お前だろ』というモーリスの声を最後に機械は沈黙した。
「どしたっぺ、ジル? 何か気んなることでもあったっぺか?」
「ちょっと……。ちょっと考えさせて……」
頭の中で、さまざまな記憶の断片が渦を巻く。
――モーリスが死んだ。
――エミールはすっかり気落ちしてしまったらしい……モーリスは彼の唯一の理解者だったし……
――イラッシャイマセ。ドラン商会ノ無人販売所ニヨウコソ。
「自販機のアイディアを出したのは『エミール』で……その自販機は『ドラン商会』の販売所……」
そしてドラン商会は一時期――かなり前――一ヶ月足らずで劣化する万能薬を売っていた?
――商売人としては、そっちのほうが都合がいい。
だよね。消費期限があるほうが、同じ客に繰り返し売れるもんね。
――商会のやつらは僕を救けに来る気がないのか。
――モーリス亡き今、僕はやつらの唯一の金蔓だ。
「ドラン商会は、フラムをわざと置き去りにした……?」
――ここでずっと万能薬を作り続けさせるために。
「けんど、そんだと筋が通らねっぺ」
私の話を一通り聞いたノルドが言った。
「んだら何でフラムは殺されたんだっぺ?」
「そう。そこがわからないのよね……」
ドラン商会にとってフラムは文字通り金蔓だ。殺す理由がないどころか、少しでも長生きさせたほうが絶対得になる。
にも関わらず、フラムは何者かに殺された。
――一体誰が、何のために?




