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ハズレスキル〈線〉が、引くほど強くなるんですが ~捨てられ転生令嬢の無自覚最強サバイバル~  作者: 円夢
第三章 万能薬

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幕間 聖騎士

お待たせしました。連載再開です

 護衛の依頼は、カーマイン伯爵領にある商会本部までだった。


「ありがとう。今回もとても助かった」


 エミールが差し出した手を、剣胼胝(だこ)のある大きな手ががしりと握る。


「何の。こちらこそ楽しい旅でした」


(ヒーローってのは、まさしくこういう男のことを言うんだろうな)


 エミールは内心独り()つ。


 手足が長く、肩幅は広く、鍛え抜かれた体つき。

 目鼻立ちは厳ついが、物腰は常に穏やかで礼儀正しく、エミールのような若造にもきちんとした態度で接してくれる。


(この世界に聖騎士(パラディン)なんて職業(ジョブ)はないが……)


 もしあれば、彼のような男こそがそう呼ばれるに違いない。


一斉討伐(レイド)には君の(クラン)も参加するのか?」

「無論です。Bランクモンスターの出現と聞いては、見過ごすことはできません」


 エミールは従者に合図すると、その手からずっしりとした革財布を受け取った。


「これはギルドの報酬とは別に、僕からの個人的な礼金だ」

「いや、エミール殿。このようなことをされては……」


 案の定渋い顔をする相手に、エミールはすっと声を落とす。


「君が支援している孤児院の建物は、そろそろ補修が必要だろう?」

「……敵いませんな、エミール殿には」


 相手は今度は拒まなかった。


「ギルドへの依頼完了報告は、僕のほうでしておくよ」

「助かります。では私はこれで。何かありましたら、またいつでもお申しつけください」


 胸に拳を当てて一揖し、男は大股に去っていった。

 何の変哲もない板金鎧(プレートメール)を着たその背中が、領都の人混みに消えていく。


「あれほどの男を手放すなんて、王家は何を考えてるんだか」


 思わず漏らしたエミールの声に、まだ若い従者が首を傾げた。


「ゼノさんのことですか? 元は騎士だったと聞いたことがありますが……」

「騎士どころか。元王宮騎士団長だよ」

「ええっ!?」

「ずいぶん前にある事件があってね。責任を取って辞任した」


 それでも彼を慕ってやってくる者は後を絶たず、結局今の団を立ち上げることになったのだが……。


 従者は「なるほど」と納得顔で頷いた。


「道理で。あの風格、絶対只者じゃないと思ってましたよ」


◆◆◆


 エミールと別れたゼノは、その足でまっすぐ街外れの教会に向かった。

 教会の裏には孤児院があり、遠くから彼の姿を見つけた子ども達が、歓声を上げて駆けてくる。


「わーい、ゼノだ」

「ゼノおじちゃーん!」

「やあ、皆。元気にしてたか?」


 飛びついてきた男の子を放り投げるように肩に乗せたり、年長の少女の頭を撫でたりしていると、騒ぎを聞きつけた小柄な修道士が教会の裏口から現れた。柔和な丸顔には縦横に古傷が走り、義足の片脚を引きずっている。


「ああ、お帰り。ゼノ」

「師父。ただいま戻りました。――早速ですが、これを」


 先ほどエミールに貰ったばかりの革財布を修道士に渡す。


「こんなにたくさん……! いただけないよ。団の維持費もあるだろう?」

「顧客からの礼金です。ギルドからは別に報酬も出るので、どうぞお受け取りを」

「……そうか、なら遠慮なく。正直言って助かるよ。礼拝堂はともかく、孤児院の床がもう限界で」


 話しながら孤児院の建物に向かう二人の後を、子ども達がぞろぞろとついていく。


「そんなことなら、早く言ってくだされば団から人を寄越しましたのに」


 言いながら、ゼノは手早く剣帯を外し、肩と腕の鎧を取った。(ヘルム)はとっくに脱いで、子どもらの玩具にさせている。


「本格的な修理はできないが、直せる箇所は直していきましょう」


 勝手知ったる様子で物置に向かいながら、ゼノはふと子どもたちを振り向いた。


「鎧は好きに触っていいが、剣は見るだけ。触れてはいけない。いいね?」

「はーい!」


 早速、鎧の周りに集まる子ども達。

 中の一人がしゃがみこみ、剣帯と一緒に置かれた鞘入りの両刃の剣(ロングソード)をしげしげとのぞきこんだ。


 使い込まれた剣の柄頭には、斧と炎の紋様が黒ずんだ銀で象嵌されていた。

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