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ハズレスキル〈線〉が、引くほど強くなるんですが ~捨てられ転生令嬢の無自覚最強サバイバル~  作者: 円夢
第三章 万能薬

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50.過去からの声

 バターで炒めた玉葱のいい匂いで目が覚めた。


 昨日はあれから結晶を拾えるだけ拾い、ノルドが〈不純物除去(デプラチオ)〉で集めた結晶を片っ端から綺麗にし始めたところで記憶が切れている。


 私は四阿(ガゼボ)の地下室で毛布にくるまって横になっており、そばではノルドが三脚に置いた鍋をかき混ぜていた。


「ああ、ジル。起きたっぺ?」

「うん。おはよう……じゃない、いい晩ね」

「ちょうど晩飯ができたとこだっぺ」


 のそのそと起きだすと、ノルドが木のお椀によそったスープに木の匙を添えて渡してくれた。

 具は何かの肉とカブに似た野菜、それにキノコと玉葱だ。


「これ全部、ノルドが持ってきたの?」


 私はぐるりを見渡した。

 鍋や三脚、毛布も食器も食料も、昨日まではなかった物ばかりだ。

 ノルドは「何を今さら」という顔で頷いた。


迷宮(ダンジョン)さ潜るんだぁ。こんくらい普通だっぺ。……つうか、ジルは何と何持ってきただ?」

「えっと……」


――――――――――――――――――――

 旅人のパン    15個

 汲みたての井戸水 19本

 オークジャーキー 2束

 ドライベリー   1/2袋

 茶葉(中級)   1缶

 碧玉葡萄     12房


 古新聞

――――――――――――――――――――


 魔法袋(マジックバッグ)の中身を言うと、ノルドは「はあっ!?」と呆れた声を上げた。


「水と食料だけだっぺ! 武器は? 毛布は? 火起こし道具は? 着替えだって要るっぺよ!」

「うん。それはそう」


 でもほら、私ってば迷宮に身一つで捨てられたわけだし。

 この魔法袋をゲットできただけでも、相当な幸運なんだけど……。


「俺が一緒だったからいいようなもんの……」


 ノルドはまだぶつぶつ言っている。


「しゃーんめぇな。ったぐ、目が離せやしねぇ」

「そ、そういえば! 結晶は全部綺麗にできた?」


 このまま行くとお説教モードに突入しそうだったので、私は急いで話題を変えた。

 案の定、ノルドはぱっと表情を明るくし、「おう」と勢い込んで頷いた。


「食い終わったら早速見てみっぺ!」


◆◆◆


 綺麗になった結晶には、微妙に色が違うものがいくつか混じっていた。


「白っぽいのは音だけ、青っぽいのが音入りの幻燈だっぺ」


 数えてみると、青い結晶は三つだけ。うち一つは初めから機械にセットされていたものだ。

 私達が最初に見た、〈僕〉が万能薬(エリクサー)を瓶に移す映像が入っているやつ。


「こん機械が落ちた時にヒビが入ったんだべな。像が変に歪んだり、後ん方が音しか出ねがったんはそのせいだっぺ」


 言いながら、ノルドは別の青い結晶を機械にセットする。

 と――。


『あー、ごほん。画像確認。音声確認』


 声と共に、私たちの前に濃紺の長衣(ローブ)を着た青年が忽然と現れた。

 小太りで童顔。額の上に、真鍮のフレームに丸レンズを嵌めこんだごついゴーグルをずり上げている。


『何緊張してんだよ、フラム』


 どこからか笑い混じりの声が聞こえ、長衣の青年が渋い顔になった。


『茶化すな、モーリス。これは貴重な媒体なんだぞ』

『だったらもっとましなことを言ったらどうだ』

『よし。ではまずこの装置の概要を――』

『じゃなくてさ。あるだろ、他に。アリッサちゃんへの伝言とか』


 途端に、青年の顔が別人のように笑み崩れる。


『そ、そうか! そうだな! アリッサちゅわ~ん! 見てまちゅか~。パパでちゅよ~! ……って、何だ、モーリス、その顔は! くそっ、駄目だ。この映像はボツだ、ボツ!』


 ぶつっ、と音がして映像が切れた。


 私たちは顔を見合わせた。

 部屋の片隅にはまだ〈僕〉の――フラムの遺体が、毛布をかけられて横たわっている。


「……後で埋葬してやっぺ」


 ノルドが言い、三つのうち最後に残った一つの青結晶を機械に嵌めこんだ。


『おーい、エミール~。見てるか~? ひぃぃぃっく』

『アリッサちゅわ~ん! パパだよ、パパ! うひゃひゃひゃひゃ!』


 場違いに明るい大声が、地下室一杯に響き渡った。


「うわあ……何これ」

「二人ともぐでんぐでんだっぺ」


 真っ赤な顔をした二人の若者が、肩を組んでげらげら笑っている。

 一人はフラム、もう一人は背が高くがっちりした亜麻色の髪の青年――おそらく彼がモーリスだろう。


 二人はしばらく嬉しくてたまらないようにつつき合っていたが、やがてモーリスの方が口を開いた。


『紳士淑女の諸君! 本日は一大ニュースを発表します! これなる……ひぃっく! えー、これなる稀代の錬金術師(アルケミスト)、フラム・フルカネリ君が、何と! 万能薬の調合に成功しましたぁ! それではフラム君、どうぞ~!』


 モーリスがおどけて芝居がかったお辞儀をし、フラムが一歩進み出る。


『ただ今ご紹介にあずかりましたフラムです。ご承知のとおり、これまで万能薬は石の巨人(ストーンゴーレム)の砂岩の隙間に、ごく稀に貯留しているものと考えられていましたが……』

『説明長いよ! もっと簡単に!』

『実はこの万能薬には明確なレシピが』


 ぶつっ。


 私とノルドは地下室の床に突っ伏した。


「もう! 何なの、この二人……」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

明日から一週間、夏休みをいただきます。

ブクマはそのまま、お待ちいただければ幸いですm(__)m

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