4.危機
本日は2話連続投稿しています。この話の前に第3話があります。ご注意ください。
……ズシン!
……ズシン!
今朝も地響きで目が覚めた。
草原の彼方を、黒い鳥の群れを冠のように纏いつかせた石の巨人がのんびりと歩いていく。
「………………」
苔を集めて作った寝床から、私はむくりと起き上がった。
枕元の石畳に指で一本線を引く。
正 T
自販機の前に立てば、おなじみの自動音声。
『イラッシャイマセ。ドラン商会ノ無人販売所ニヨウコソ』
「えー?『焼きたてパン』、今日も売切れ!? マジ勘弁なんだけど」
『現金マタハ〈カード〉ヲ入レルカ、〈買取リ〉ボタンヲ押シテクダサイ』
スロットにカードを差し込むと、表示窓に「11930」とカードの残額が表示された。
「今日の日替わりは『オークシチュー定食』、1100Gかあ……。腹持ちはいいけど、めっちゃ喉乾くんだよね、これ……』
文句を言いながらも、『汲みたての井戸水』と『〈金の鶏〉亭のオークシチュー定食』のボタンを押す。
――合計、1220G。
表示窓の数字が「10710」に変わり、開口部がぱかりと開いた。
湯気の立つオークシチュー定食と、瓶入りの水が現れる。
ここで暮らし始めて一週間。
その間に、少しずついろんなことがわかってきた。
まず初日に思ったとおり、この祠にモンスターは寄ってこない。
具体的には、祠を取り巻く石畳の範囲内が安全地帯、というか、何らかの結界で守られているようだ。
その先は一面、私の身の丈を超すほどの草が生えており、中から時折獣のような唸り声や、ギチギチギチッ! という虫っぽい声が聞こえてくる。
一度だけ、モンスターを見たことがあった。
祠の端から少し離れた草むらから、体長2mはありそうな巨大なバッタが飛び出したのだ。
緑色の口の周りはそこだけ真っ赤に濡れており、動物のものらしき四本の足がはみ出していた。
モンスターを見たのはその時だけだったけど、絶対ここを動くまい、と私に決心させるには十分だった。
次に自販機。
〈買取り〉では、食べ終わった食器や空き瓶も買い取ってもらえる。
前世でいえばデポジット的な? なかなかエコな仕組みである。
買取り率は一律10パーセント。
120Gの水なら瓶代12G、1100Gの定食なら食器一揃いで110Gだ。
ただし、串揚げの串は買い取ってもらえなかった。
パンも、パンだけで出てくるのでデポジットはなし。
ちなみに、そのへんで拾った小石や草も買い取ってもらえなかった。
ていうか、よく見たら自販機の真ん中あたりに注意書きが貼られていた。
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商品投入口に小石や土、雑草などのゴミを入れないでください。
生き物の買取りは行っておりません。
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自販機についてもう一つ。
品揃えと値段に変動があった。
初級回復薬 500G
汲みたての井戸水 120G
この二つは定番らしく、今のところ毎日同じ値段で売ってるけれど、他のアイテムについては、
焼きたてパン 売切れ
解毒薬 1,000G
のように、品切れだったり価格が変わったりするのだ。
特に焼きたてパンは、ここへ来て四日目以降、ずっと売切れが続いている。
今のところ解毒薬は要らなそうだけど、最安値のパンがないとなると、残る選択肢は、
〈金の鶏〉亭のオークシチュー定食 1,100G
とか、
最高級碧玉葡萄 1,200G
とか高いものしかなくて、限られた資金がごりごり削られてしまう。
定食の日は一日一食だけで我慢して、今日まで何とか食いつないできたけれど……。
今日の分のデポジットを入れても、私の手持ちは10,832G。
資金が底をつくまで、あと10日といったところか。
「いやいや。さすがにそれまでには、誰かしら通りかかるよね?」
『イラッシャイマセ。ドラン商会ノ無人販売所ニヨウコソ』
「カーマイン迷宮といえば、国内屈指の素材の宝庫。常時冒険者で賑わってるって、家庭教師の先生も言ってたし」
――なあんてね。
そんな風に考えてた時期が、私にもありました。
状況が一気に悪化したのは、その翌日。
自販機の食べ物がすべて『売切れ』になったのだ。




