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ハズレスキル〈線〉が、引くほど強くなるんですが ~捨てられ転生令嬢の無自覚最強サバイバル~  作者: 円夢
カーマイン迷宮

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3.自販機

 転移門(ポータル)の先は、古びた石の祠だった。

 二本の石柱に支えられた出口から、風にそよぐ一面の草原が見える。


「……えっと」


 どこだろう、ここは。

 見た感じ、外に転送されたようだけど……。


 ……ズシン!


「……迷宮の出口、じゃなかったかぁ……」


 ……ズシン!


 遥か彼方を、灰色の岩を積み上げて作ったような 石の巨人(ストーンゴーレム)が悠然と歩いていく。

 その頭に(たか)るハエのように、黒い鳥の群れが輪を描いて飛んでいた。


【ストーンゴーレム】

 カーマイン迷宮(ダンジョン)に出没する人造生物(ゴーレム)の一種。その身体には、ごく稀に貴重な万能薬(エリクサー)が貯まっていることがある。カーマイン領の特産物のひとつ。


 万能薬が出る確率なんて万分の一以下だけど、それでも見つければ一生遊んで暮らせるからと、ゴーレム討伐に挑んで亡くなる冒険者が跡を絶たないって家庭教師の先生が言ってたっけ……。


 などと思い出していると。

 背後でヴン! と音がした。


転移門(ポータル)の開通時間が終了しました』


 見れば、先ほどまで白く輝いていた転移門が光を失い、ただの石の台座になってしまっている。

 つまり、ここから元の部屋には戻れない、と。

 その代わり、騎士団が転移門を通って追ってくることもないわけだから、当面は安心ってことでいいのかな?


「いやいやいやいや」


 ちっとも安心できないよ! 私ってば、転生したけどスライムでも蜘蛛でもなく、かよわい十歳の女の子だよ? モンスターがうようよしてる迷宮の中でサバイバルなんて、無理ゲーにもほどがあるっしょ!


 とにかく、この迷宮から一刻も早く脱出しなければ。

 でも、私一人じゃ絶対無理だ。誰かもっと強い人に連れていってもらわないと。

 幸い、カーマイン迷宮に出入りする冒険者は多い。

 ここでじっとしていれば、いずれは再び転移門が開いて、誰かが通りかかるはず!


「でもなぁ……」


 転移門を通って現れる「誰か」が、あの騎士団だったりしたら目も当てられない。冒険者だって、いい人ばかりとは限らないし。

 私をここに連れてきた三人組も、身なりは冒険者ふうだったしね!


 とりあえずこの近くに身を隠して、転移門から出てくるのがどんな人か見てから決めよう。そうしよう。


 何となくだけど、この祠の周辺には、モンスターもあまり寄ってこないような気がする。

 少なくとも、あのストーンゴーレムがここに来ていたら、こんな祠はとっくに潰されていただろうし。


 というわけで、私はおっかなびっくり祠の外に足を踏み出した。


『イラッシャイマセ』

「わあっ!?」


 振り向けば、祠のすぐ外に……。


『ドラン商会ノ無人販売所ニヨウコソ』


 前世でたまに見たことのある「しゃべる自販機」が設置されていた。


◆◆◆


『ドラン商会ノ無人販売所ニヨウコソ。現金、マタハ〈カード〉ヲ入レルカ、〈買取リ〉ボタンヲ押シテクダサイ』


 衝撃のあまり立ちすくむ私に、自販機はそう繰り返した。

 自販機の前面には、商品名の書かれたボタンがずらりと並んでいる。

 そういう意味では、自販機というより食券販売機みたいなデザインだ。


 山刀(中古) 6,000G

 長剣(新品)19,000G

 革鎧(特売)80,000G


 といった武器や防具に始まり、


 初級回復薬(ポーション) 500G

 解毒薬   800G


 のような薬系、さらにはバッグや衣類まで売っている。

 ちなみに末尾の「G」は大陸共通の貨幣単位「グルト」の略号だ。


 カテゴリーごとに色分けされたボタンの中には、飲食物もあった。


 焼きたてパン    200G

 汲みたての井戸水  120G

〈金の鶏〉亭の串揚げ 500G

 

「いや、これ絶対、私以外にも転生者いるでしょ」


 自販機という発想といい、単に「串揚げ」と書かず、ご丁寧に店名まで出してるあたり、絶対、前世の販促知識で商人無双してる人がいるに決まってる。


 それはともかく。


「お腹空いた……」


 ここまで緊張の連続で忘れ去っていたけれど、考えてみたら「託宣の儀」の日の朝食以来、水以外何も口にしていない。

 せめてパンだけでも買って食べたいけれど、


「お金、持ってないんだよねえ……」


 この国の貴族は、基本、現金を持ち歩かない。

 商品は店で買うものではなく、ご用聞きの商人が屋敷に直接持ち込んでくるし、そもそも私は子どもだから、服もアクセサリーも何もかも、親が買ったものを与えられるだけだった。


『オ手持チノ現金ガナイ場合ハ、買取リモ行ッテオリマス』


 まるで私の声が聞こえたかのように、自販機から声がした。

 なるほど、商品選択ボタンとは別に「買取り」ボタンもある。


 恐る恐るそれを押してみると、


『オ売リイタダケルオ品ヲ入レ、フタヲ閉ジテクダサイ』


 という声とともに、自販機の中ほどにあった四角い板がぱかりと開いた。

 私は改めて自分の姿を見下ろす。


「託宣の儀」のために誂えられたよそゆきのワンピースは、いい値がつくかもしれないけれど、売ったお金で代わりの服が買えるとは限らない。同様の理由で靴もダメ。身に着けていたはずのネックレスや髪飾りは、あの三人組に掠め取られたらしくなくなっているし……。


「あ」


 ポケットにレースのハンカチがあった。

 淑女の嗜みである。

 これなら無くてもたぶん困らない。ていうか、背に腹は代えられない。


 せめて、パンひとつ分くらいにはなりますように。


 祈るような気持ちで、自販機の開口部にハンカチを入れ、蓋を閉じると。


『タダイマ査定シテオリマス。シバラクオ待チクダサイ』

『タダイマ査定シテオリマス。シバラクオ待チクダサイ』


 何度か同じアナウンスが流れてから、販売機の上部に品名と買取り価格が表示された。


 スパイダーシルクの手巾(未使用美品) 19,000


「マジか!」


 あんなちっぽけな布切れが……。

 いや、でもこれだけあれば、当分食べるのに困ることはなさそうだ。


『オ売リニナリマスカ』


 声と同時に、『はい』『いいえ』と書かれたボタンが点滅する。

 迷わず『はい』を押すと、


『1万グルト以上ノオ取引ハ、保安上〈カード〉ノミトサセテイタダイテオリマス。当店ノカードハオ持チデスカ』

 

 カードはないので『いいえ』を押すと、自販機の中でウゥゥン……と作動音がした。やがて右手のスロットから、表面に『19,000』と印字された青いカードが吐き出される。


『新規ゴ登録アリガトウゴザイマシタ。ゴ使用前ニ、カードノ裏面二必ズ〈サイン〉スルカ、ゴ自身ノ〈血〉ヲタラシテクダサイ』


 そう言われて裏を返すと、ご丁寧に「署名」と書かれた欄がある。

 うん、これ絶対転生者が作ったやつだ。


 筆記用具なんて持ってないから、指先を切って血を出すか。

 でも、やだな。こんなとこで不用意に切り傷なんて作ったら、やばい菌とか入りそう。

 その時、ふと自分のスキルを思い出した。


(ライン)〉Lv.1 任意の場所に線を引く


 もしかしてこれ、使えんじゃね?

 

 試しに署名欄を指でなぞってみたら、ボールペンで書いたような細くて赤い線が出た。

 おー、いけるいける。


 勇んで「ジゼル・カーマイン」と書こうとして、「G」のところで手が止まった。


 これ、本名書いたらまずいのでは。


 聞いたこともない商会のカードである。それでなくても、私ってば両親に命を狙われてるわけだし。


 とはいえ、一度書いた線は消せないようで、「G」の文字はしっかりカードに定着してしまっている。


「Gで始まる別の名前……グレープ……グラノーラ……ガレット……ジェラート……」


 空腹なせいで、食べ物しか浮かんでこない。


「ああもう。これでいいや!」


 私はさらさらとサインすると、「パン」のボタンを連打した。


『現金、マタハ〈カード〉ヲ入レテクダサイ』


 作ったばかりのカードをスロットに入れる。

 と、再び開口部がぱかりと開き、本当にほかほかといい匂いのする焼きたてのパンが現れた。


「……おいしい……おいしいよう……」


 あっという間にひとつ目を食べ終え、「汲みたての井戸水」と「串揚げ」も追加する。

 気がついた時には2000G近くも使ってしまっていたけど、まぁいっか。ひとまず飢えをしのいだところで、今後のことを考え…………考え…………。


 満腹感と同時に、強烈な睡魔が襲ってくる。

 私は自販機にもたれかかると、すこんと眠り込んでしまった。

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