43.警鐘
ギルドカードの登録に続き、碧玉葡萄を買い取ってもらうことになった。
私の後ろですでに魔法袋を開けていたノドが最初。続いてノラがカウンターに葡萄を積み上げる。
「まあ! こんなに見事な碧玉葡萄を、しかもこんなにたくさん! 一体どこで見つけたの?」
友達口調に戻ったシルヴィの問いに、兄妹は澄ました顔で、
「秘密だっぺ」
「なーいしょっ!」
と口々に答えている。
トレイに山積みになった葡萄を抱え、いったん奥に引っ込んだシルヴィは、やがてそのトレイに革袋を二つ載せて戻ってきた。
「はい、どうぞ。ノド君の分が59,000G、ノラちゃんが36,000Gになったわ」
(……! すごい!)
碧玉葡萄は確かに高級食材だけど――祠の自販機でも「焼きたてパン」が200Gで買えたのに、「最高級碧玉葡萄」は確か1,000G以上だったはず――それにしても仕入れ値でこのお値段。
前世なら、最高級の房だけを厳選した桐箱入りのシャインマスカット、みたいな感じだろうか。
(でも、この分ならニルドに返す30,000Gとノドに払う1,000Gも余裕で払えそう)
何ならそれでもお釣りが出そうだ。
内心ほくほくしながら、私が自分の魔法袋に手をかけた時だった。
突然、街のあちこちで鐘が鳴りだした。
同時に、全身にざっと鳥肌が立つ。
――〈虫の知らせ〉!?
「モンスターだ!」
「城壁の外にモンスターが出たぞ!」
さっき、領都の門で見張りをしていた衛兵のお兄さんが息せき切って駆け込んできた。
「ロックボアの大群だ!」
◆◆◆
一瞬にして、冒険者ギルドの中は蜂の巣を突いたような騒ぎになった。
「誰か、お館様に知らせに行け!」
「宿に残っているパーティ全員に使いを出せ!」
気がつけば、シルヴィもいつの間にかどこかに行っており、目の前のカウンターはもぬけの殻になっていた。
「兄ちゃん、ロックボアだって! ノラたちも狩りに行く?」
目を輝かせて言うノラに、ノドは「んにゃ」と難しい顔をした。
「相手はロックボアの集団だっぺ。罠に掛かった一頭二頭とはわけが違うべよ。……それに、今夜はジルも一緒だしな」
これにはまた駄々をこねるかな? と思われたノラは、意外にもあっさり「うん」と頷いた。
「そっか。そうだよね。ジルに何かあったら大変だもんね」
そして、きゅっと私の手を握る。
「いい? ジル。ノラと離れちゃ絶対駄目だからね?」
――ああ。
ノラは十二歳。
これまでずっと年下と思って接してきたけど、ノラはノラで「十歳のジゼル」をずっと妹分として見てたのか。
何だか微笑ましいような、胸の奥がむず痒いような気分で、私は「うん」と頷いた。
「で、ノド。私達はこれからどうするの?」
実年齢はともかく、小学生並みの背丈しかないノドノラ兄妹とジゼルが、非常時のギルド内でうろうろしていたら大人達の邪魔だろう。
「とりあえず〈闇の宮廷〉さ行ぐか。あっこなら、万が一夜明けまでかかっても大丈夫だっぺ」
「〈闇の宮廷〉?」
「俺ら〈夜の子ら〉の隠れがみたいなとこだっぺ」
ノドが言うには、今回のような〈襲来〉は珍しいが、前例が全くないわけではない。そんな時、戦えない者は安全な場所に隠れ、その間に領都の冒険者達が総がかりで大規模な狩りをするという。
「一斉討伐ってこと?」
「なぁに、そったら大袈裟なもんでねぇ。前ん時ぁ、終わってから、城壁ん外で盛大にボア肉焼いて、どえらい宴会になったっぺよ」
言われてみれば、周りの冒険者達も、バタバタしてはいるものの、どことなく浮き立つような雰囲気が漂っている。
ノラに手を引かれ、ノドの後から冒険者ギルドを出た私は、だからすっかり忘れていた。
これまで〈虫の知らせ〉が来た時は、必ず命に関わる危険があったことを。
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