40.領都へ
ストックに少し余裕が出たので、本日2話目の投稿です。
よそ者の冒険者が岩小人の山に入り込み、無断で罠を仕掛けたこと。
そして何より、Bランクモンスターと言われたジャイアントロックボアの出現は、速やかに領主様に報告すべきだ。
ニルドはそう言い、翌日の夜を待ってティール辺境伯の住む領都ズマラックに行くことになった。
「んだら俺らも一緒に行くべ」
ノドが言って私を見る。
「碧玉葡萄さ売るなら、領都のギルドの方が断然いい値がつくっぺよ」
「んだな。それに、領都ならジルの故郷に手紙も出せる」
ニルドも頷く。
「ずいぶん大人びて見えっけど、ジルはまだ子どもだっぺ? 親御さんら、きっと心配してっぺよ」
「えー!? ジルもう帰っちゃうの!? 嫌だ嫌だ、もっとここにいてよう!」
抱きついてくるノラの頭を撫でながら、思わず乾いた笑いが出た。
「いや、それはないですね。私、親はもういないんで」
――嘘じゃない。あの人たちの「娘」は、もう別にいるんだから。
けれど、ノドたちは揃っていたましげな顔をした。
「そっか。そら悪がったなぁ。なら、好きなだけここにいるといいべ」
いたわるように言うニルドに続き、
「んだな。ジルはもう家族みたいなもんだし」
「そうよ、そうよ! ずっとノラたちと一緒にいて!」
ノドとノラも口を揃える。
(…………っ!)
胸の内に、ひたひたと温かなものが満ちていく。
「あ、ありがとう……ございます……」
ほろり、と涙が頬を伝ったと思ったら、喉がきゅうっと締めつけられて、私はぼろぼろ泣き出してしまった。
「あれ? へ、変だな。すごく嬉しいのに……すみません、こんな」
中身はいい歳した大人なのに。
恥ずかしくて盛んに目を擦る私の頭を、ノドが背伸びして撫でてくれた。
「いいが、いいが。あったらとこに女の子がたった一人で、ずっとおっかながったべなぁ」
ノラも、さらにぴったりと抱きついてきながら言う。
「大丈夫。今日はノラと一緒に寝よう?」
「お前はジルとくっついていたいだけだろが」
「へえんだ。兄ちゃんは入れてあげないんだからね~」
「ばっ! ばがなごと言ってんじゃねぇ!」
首まで真っ赤になって怒鳴るノドを見て、私は迷宮に捨てられたあの日以来、初めて心の底から笑った。
◆◆◆
翌晩。
ノラのベッドで目覚めた私の顔はすごいことになっていた。
「あっちゃあ……」
さんざん泣いた上に擦ったせいで、白目は充血しているし、目蓋もぷっくり腫れている。
「わあ、ジルの目、真っ赤っか! 石兎みたい。回復薬使う?」
言うなり、さっとスプレーを取り出すノラを、慌てて「待って待って!」と制止する。
いや、それ、ニルドの上級回復薬のスプレーだよね? まだ返してなかったんかい!
――ていうか。
鏡に映る紅色の瞳を見てふと気づく。
――領都に下りるなら、この目は人に見られないようにしないと。
前髪を下ろすか、フードで隠すか。
前世ならサングラスなんて便利なものがあったけど……。
(……! そうだ!)
ベッドの柱に引っ掻けておいたゴーグルを見て思いつく。
「ねえ、ノラ。これ、暗視機能をオフにできるかな?」
「あんしきのーふ?」
「ああ。えっと、明るいところでも見えるようにできる?」
「できるよー」
ノラはあっさり頷くと、私のゴーグルのごついフレームから突き出たツマミを指さした。
「ここをこっちに回すと昼用。こっちに回すと夜用レンズになるの」
おおー。仕組みはさっぱりわからないけどハイテクだ。
とりあえず街中ではずっとこれを着けていよう。
ドアの外でノドの声がした。
「ノラ、ジル。支度は済んでっか? そろそろ出かけっど~」
「はあい。今行く~」
元気に答えたノラに続いて、私も部屋を出ていった。




