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ハズレスキル〈線〉が、引くほど強くなるんですが ~捨てられ転生令嬢の無自覚最強サバイバル~  作者: 円夢
第二章〈夜の子ら〉

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幕間 ミアベル

 自分は「お姫様」なのだ、とずっと思っていた。


 だって、父も兄たちも、ことあるごとに「ミアは我が家のお姫様だ」と言っていたし、商会の店員も使用人も、ミアベルのことを「お嬢様」と呼んで、何でも言うことを聞いてくれる。


 ただ一人、母だけがミアベルに厳しかった。


「周りの人がちやほやしてくれるからって、いい気になっちゃ駄目よ」

「あんたはマルーン商会の娘なんだから、商人の娘らしくわきまえないと」


 でもミアベルは知っている。

 父はカーマイン伯爵の弟で、ミアにも貴族の血が流れていることを。


 だから「託宣の儀」のすぐ後で、伯父であるカーマイン伯爵夫妻から「私達の子にならないか」と訊かれた時も二つ返事で引き受けた。


 ――「ミアベル」ではなく「ジゼル」として、という点だけが、ちょっとだけ不満だったけど。


 でもそれも、豪商で知られるマルーン家よりさらに豪華な伯爵家の荘園屋敷(マナーハウス)に迎えられ、広々とした部屋で専属のメイドに傅かれているうちに、別にいいかと思うようになった。

 口うるさい家庭教師(ガヴァネス)のおばさんに宮廷ふうの礼儀(マナー)を習うことだって、王子様のお嫁さんになるために必要だと言われれば頑張れた。


 そう。

 ミアベルは「お姫様」なだけでなく、将来は「王子様のお妃さま」になるのだ!


「〈結界〉は聖女系スキルの中でも〈聖域〉の次に貴重なのよ」


 カーマインの伯母様……じゃない、お母様が言う。


「第二王子のハリスリック殿下は十四歳。年回りも丁度いいし、王子妃は()()()で決まりだな」


 と伯父……お父様。

 自分のものではない名前に、ミアベルは唇を尖らせた。


「ねえ、おじ……お父様。ミア、やっぱり名前は元のほうがいいなぁ」


「ジゼル」なんて好きじゃない。それはミアベルの大嫌いな「あの子」の名前だ。

「ミアベル」のほうがずっと素敵だし可愛らしい。


 けれどカーマイン伯爵夫妻は、その言葉を聞くなり顔を見合わせた。


「あなた。これは……」

「そうだな。今のうちに手を打っておくか」


 その日、寝しなに出されたココアは何だか変な味がした。

 そして――。


◆◆◆


「で? 君は本当は誰なんだ?」


 王宮の薔薇園でハリス王子に問いかけられたミアベルは喜んだ。


 この王子様は気づいてくれた!

 私が「ジゼル」じゃなく「ミアベル」だって!

 ミアベルは満面の笑みを浮かべて言った。


()()()()()()()()()()()()


 ――っ!? 何で……。


 私はミアベル・マルーンです。


 そう言うつもりだったのに。


 ハリス王子は、目に見えて失望した様子だった。


「なるほどね。ずいぶんと躾が行き届いていることだ」

「ち、違っ! 私……私はっ! ジゼ……ジゼ……っ!」

「もういいよ」


 必死に訂正しようとするミアベルだったが、王子はため息をついて顔を背けた。


「では、そろそろ戻ろうか、ジゼル嬢。君と話すことはもうないよ」


 その夜。


 タウンハウスに戻ったミアベルはメイドを下がらせ、ひとり小さく呟いてみた。


「私は……ジ……ゼル。ジゼル・カーマイン」


 ノートを出して書いてみた。


 ジゼル。

 ジゼルジゼルジゼルジゼルジゼルジゼルジゼルジゼル……。


「――――っ!」


 破り取ったページを何度も引き裂き、暖炉の中に放り込む。

 贅を尽くした家具に、高価な寝具。

 今着ているワンピースだって、まるでお姫様のドレスのようだ。


 けれど。


 ――ミアは我が家のお姫様だ。


 ここにいる「お姫様」はミアじゃない。

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