37.侵入者
私は驚いて声の方を振り返る。
途端に視界が白飛びした。
慌ててゴーグルをずり上げれば、あたりが真っ暗な闇に閉ざされる。
ややあって暗がりに目が慣れると、空き地の向こうに浮かび上がる木立の影と、その中をゆっくりと近づいてくる青白く揺れる光が見えてきた。
「つか俺達の獲物、石化してね? 勘弁してよー。石化の解除なんて、万能薬でもなきゃできねーじゃん」
やがて光の輪の中に浮かび上がったのは、若い男女の二人連れだった。
男は全身黒ずくめ。フードを目深に被り、革鎧に斜め掛けしたベルトには、短剣と用途不明のポーチがずらりと並んでいる。
女のほうは緑褐色の短いマントに、長弓と矢筒を背負っているが、マントの下は革製のビキニトップとお揃いのショートパンツという軽装で、胸の谷間とお臍が丸見えだ。
青白い光は、女が無造作にぶら下げた角灯から放たれているのだった。
「何者だ、あんたら」
ニルドの誰何に、二人は顔を見合わせた。
「何、こいつら」
「斥候ザックと狩人ロージーのことも知らないとか、ウケるー」
男が馬鹿にしたように鼻を鳴らし、女が下品な笑い声を上げる。
「…………っ!」
ニルドがずいっと前に出た。
「狩人っちゅうことは、こん罠ここさ置いたんはあんたらか!」
「だから、さっきからそう言ってんじゃん。そっちこそ、人の獲物横取りしといて何なの? まぁ石化しちゃってるから、今さら返されても困るけどぉ」
――不愉快だ。
ケタケタ笑う二人組に、私は猛烈な嫌悪感を覚えていた。
身勝手に相手を傷つけておいて、その傷も怒りも冗談にして笑い飛ばす。
相手の痛みに気づいていないわけじゃない。気づいた上で、自分が攻撃されないように茶化しているのだ。
「そん罠のせいで、ノラは……俺の妹は死にかけたんだど!」
いつの間にか隣に来ていたノラが、私の袖をきゅっと掴んだ。私は無言でその小さな身体を抱き寄せる。
「へえ? そうなんだ。ごめんねー」
女は一向に悪びれる様子もなく、軽く肩を竦めて言った。
「けど、モンスターじゃあるまいし、あんな見え見えの罠に引っ掛かるほうが間抜けっていうかぁ」
その言葉に、居合わせた岩小人たちが一斉に殺気立った。
「こいつ、ぶっ殺して……っ!」
「兄ちゃんっ……!」
続いて飛び出しかけたノラを、私は慌てて引き戻す。
「おおっとぉ」
女――ロージーに向かって飛び出したノドの背後に、忽然と男――ザックが現れた。
素早くノドを羽交い絞めにし、その首に短剣を突きつける。
「不用意に動くなよ、兄さん。こいつの刃には毒蛙の粘液が塗ってある。うっかり触ると――?」
ザックがふいに言葉を切り、何かに耳を澄ますように首を傾げた。
一拍遅れて、私の耳にもその音――いや、地響きが聞こえてくる。
ブオオオオオオ――ン!
大地を揺るがす咆哮と共に木立の木々が弾け飛び、それが姿を現した。




