36.罠師
錬金術を得意とする岩小人の中でも、ハーキ族は特に魔導具作りに長けているそうだ。
「〈付与魔術〉は、うちの部族の固有スキルなんだっぺ」
とニルドは言う。
彼が主に作っているのは、罠や網といった狩りの道具だそうだ。
「もっともノドの奴ぁ、俺の罠なんかにゃ見向きもしねぇで、妙な物ばっかこさえてっし、ノラに至っちゃ、道具より狩りに夢中ときたもんだが」
口では嘆いてみせつつも、ニルドが兄妹を見る目は柔らかい。
「そうだ、父ちゃん! ノラ、父ちゃんにすっごいお土産持ってきた!」
妹の言葉に、ノドが魔法袋から、ベビーロックボアの首をずるりと引っ張り出す。
「森ん中で、罠さ掛がって死んだ奴だ。時間さえありゃ、全部持って帰れたんだども」
正確には私の〈防衛線〉で真っ二つになったやつだけど、わざわざ言うほどのことでもないか。
「ほう! こりゃ見事な――」
感心したようにニルドが言いかけたとき。
食堂の壁の隅についていたラッパ型の金管からガサゴソ音がしたかと思うと、くぐもった男の声が聞こえてきた。
『ニルド、ちっといいか? 扉岩ん前で、お前ぇん罠に子ボアが掛がってんだどもよ』
わあ、伝声管だ!
『誰も外せなくて往生してんだ。こっちさ来でくんねえか』
◆◆◆
「――こいつぁ、俺ん罠じゃねぇな」
しばらく後。
伝声管の声に呼ばれたニルドに、ノド、ノラ、私の三人もくっついて、扉岩の前の空き地に来ていた。
外はもうすっかり夜だ。薄曇りの夜空に、欠けた月がぼんやりと浮かんでいる。
小人たちにならい、私も首に下げていたゴーグルを装着した。
ニルドは石になったベビーロックボアの足から罠を外し、ためつすがめつしながら難しい顔になっている。
「よぐ似てっが、細けぇとこの造りが雑だ。よそ者が真似してこさえた物だな」
「ドワーフか?」
周囲を取り囲んだ小人たちの中から声が上がる。
「うんにゃ、ドワーフは付与紋さ使わねぇ。使うとしたら人ん子だっぺ」
「んだら、そっちの娘っ子ん仕業か?」
一人の声で、その場の全員が私を見た。
いやいやいやいや。
慌てふためく私を庇うように、ノドノラ兄妹がさっと前に出る。
「ジルはそんなことしないもん!」
「つうか、同じ罠にかかったノラを、ジルは助けてくれたっぺ!」
「その通りだ」
そう言うと、ニルドも前に出た。
「実は昨日、ノラもこれと同じ罠に掛がってな。そん罠は、扉岩の真ん前に仕掛げてあった」
「はあっ? ノラちゃんが!?」
「誰がそったらひでぇことを」
その時だった。
「え~? ちょっと、やだぁ。あたし達の罠、無断で外されちゃってるんですけどぉ~」
耳障りな女の声が、扉岩の前に響き渡った。




