幕間 王子ハリス
本日2話目の投稿です。この前に「35.罠」があります。ご注意ください。
王妃の茶会に現れた令嬢は、彼の記憶にある少女ではなかった。
「カーマイン伯爵が長女、ジゼル・カーマインでございます」
なのになぜ、目の前で宮廷礼をするこの少女は〈あの子〉の名前を名乗るのだろう。
「ハリスリック・アルバ・クロマティカです」
〈あの子〉より少しだけ癖のある黒髪。
〈あの子〉よりずいぶんと茶がかった瞳。
なのに、周りの大人たちは皆、この少女こそが〈あの子〉だと言う。
王妃主催のお茶会は、王宮でも奥まったところにある室内温室で開かれた。
招待客は、カーマイン伯爵夫人、およびその令嬢のジゼルだけ。
もちろん彼らの背後には、令嬢付きのメイドと護衛の騎士が一人ずつ控えているけれど……。
この会が実質、自分と目の前の令嬢との婚約を前提とした顔合わせであることくらい、十四歳のハリスはとうに理解していた。
せめてもの救いは、彼が自ら選んで贈った薔薇柘榴石のネックレスを、目の前の少女が着けてこなかったことだろうか。
――だって、あれは〈あの子〉のために選んだものだ。
かつて一度だけ、それも遠目に見たことがあるだけの少女のために――。
もの思いに耽っていたハリスは、母のよそ行きの声ではっと我に返った。
「愛らしいお嬢さんだこと。ねえ、ハリス?」
ハリスが口を開くより早く、伯爵夫人がそつなく応じる。
「お褒めにあずかり光栄ですわ、王妃様。殿下もますます凛々しくなられて」
――母上だって〈あの子〉に会ったことがあるはずだ。第一、伯爵夫人は〈あの子〉の実の母親じゃないか!
渦巻く疑問に胸の内は波立っていたが、ハリスは伯爵夫人に向かい、にこやかに会釈した。
問い質してみたところで、大人たちはどうせ本当のことは言わない。
そう、大人たちは。
――でも、子どもなら?
ハリスは「ジゼル」に礼儀正しく腕を差し出した。
「よろしければ、外の庭を散歩しませんか。レディ」
「ありがとうございます、殿下。喜んで」
そうして温室から王妃自慢の薔薇園へと少女をエスコートしたハリスは、大人たちの目も声も届かない場所に来た途端、くるりと少女に向き直った。
「で? 君は本当は誰なんだ?」
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