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ハズレスキル〈線〉が、引くほど強くなるんですが ~捨てられ転生令嬢の無自覚最強サバイバル~  作者: 円夢
第一章 カーマイン迷宮

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幕間 アリッサ

本日は2話投稿しています。

ひとつ前に「33.バリア」があります。ご注意ください。

 謎の人物「ギュードン・カルビ」の正体を探るべく、エミールが用意した紹介状を手に、カーマイン伯爵家に潜り込むこと一週間。


「差し入れです」と騎士団の宿舎に持ち込んだ手作りクッキーで、アリッサは見事に騎士たちの胃袋を掴んだ。

 潜入初日、荘園屋敷(マナーハウス)の廊下で遭遇したペルゾイス(王の庶子)との関係も良好だ。


 エミールの元に情報を持ち帰る日も、そう遠くないだろう……。


「――と、そうなるはずだったんすけど……」


 一体どこで間違えたのか。


「はて?」


 と首を傾げるアリッサに、今日もペルゾイスの罵声が飛んでくる。


「貴様! その毒物を詰め所に持ち込むなと何度言えばわかるのだ!」

「毒物とは失礼な。これ一本で不足しがちな栄養素が全て賄える奇跡のクッキーですよ?」

「部下たちの大半を寝込ませておいて何を言うか!」

「あ、それはですね」

「もういい。出ていけ!」


 せっかく説明しようとしたのに、猫の子のように襟首を掴まれ、ぽいっと詰め所から放り出されてしまった。


 王都ヴァイゼン。


 先週、領地の荘園屋敷を出発したカーマイン伯爵夫妻とその娘ジゼルは、現在はタウンハウスに滞在し、王宮からの呼び出しを待っている。

 カーマイン騎士団を束ねるペルゾイスの他、ジゼル付きの侍女として雇われたアリッサもその中に入っていた。


 ぽこぺん。


 メイド服の襟元につけた、ブローチ型の魔導具から音がする。


「……っと。お嬢様がお呼びっすね」


 アリッサは身を翻すと、急ぎ足で廊下を歩き出した。


◆◆◆


 ジゼルの部屋には、お嬢様だけでなく伯爵夫人の姿もあった。

 室内にはトルソーが持ち込まれ、春らしく明るい色のワンピースが着せられている。


 ――まだ十歳のお子さんにスパイダーシルクのワンピっすか。さすがカーマイン伯爵家。つぎ込む額が違うっすね。


 ひゅう、とひそかに口笛を吹くアリッサに、伯爵夫人がおもむろに命じた。


「王妃様のお茶会は明日に決まったわ。ドレスはこれにするとして、アクセサリーを持ってきてちょうだい」

「かしこまりました」


 ドレッサーの抽斗から、これまた子どものものとは思えないほど高価なジュエリーを次々出していく。


 ジゼルの瞳の色に合わせたのだろう。宝石類は圧倒的に柘榴石(ガーネット)が多かった。

 中でも一際目を引くのは、深紅色の見事な薔薇(ロードライト)柘榴石(ガーネット)を連ねた一連のネックレスだ。

 その澄み切った暗赤色の輝きは、迷宮(ダンジョン)産の珍奇な宝石を見慣れたアリッサでさえ息を呑むほどの美しさだった。


 ――これはまた……。色といい形といい、ほとんど国宝級の芸術品じゃないっすか。


 ジゼルもこれを気に入ったのだろう。


「これがいい! これにするわ!」


 言うが早いか、素早く手を伸ばしてネックレスを取り、自分の首に当ててみせた。


「どう?」


 自慢げに胸を反らす少女を前に、けれど、アリッサは「うっ」と言葉に詰まる。


 ――色味が合わないんすよねえ、絶妙に。


 明るい部屋で見るジゼルの瞳は、やや茶色がかっており、ネックレスの澄んだ赤と並ぶと、瞳のほうがくすんでしまう。

 とはいえ、使用人の分際ではっきり指摘するのも躊躇われ、アリッサが逡巡していると。


「駄目ね。これは貴女に合わないわ」


 伯爵夫人が娘の手からひったくるようにネックレスを取り上げた。


「これは戻しておいてちょうだい」


 さっさと箱にしまいこんだネックレスを、アリッサの手に押しつける。

 ジゼルの顔に、はっきりと傷ついた表情が浮かんだ。


「あの、でしたらこれなどいかがですか?」


 アリッサは、アクセサリーの中から一つを選んで差し出した。

 ジゼルのコレクションの中では珍しく、やや茶がかった赤い宝石でできた、左右非対称のイヤリング。


 ――ラスト迷宮産の赤針水晶(レッドルチルクォーツ)。確か、マルーン商会が独占販売している品っすね。


 品質こそ先ほどのネックレスに及ばないものの、色合いはジゼルの瞳にそっくりだし、デザインは最新流行のものだ。


 少女の耳に着けてやり、手早く髪を片側に流して結い上げると、やはりコレクションにあった金細工のコームでそっと留めた。


「あちらのワンピースのデザインとも、相性がいいと存じます」

「あら、いいじゃない」


 伯爵夫人が満足そうに頷いた。


「さすが、バイロンが見立てただけのことはあるわ」


(バイロン? もしかして()()バイロンっすか!?)


 バイロン・マルーン。


 知る人ぞ知る王都の老舗、マルーン商会の商会長。

 新興のドラン商会にとっては、王都進出を阻む大きな壁である。


「それと、そこのメイドの貴女」

「はい」

「紹介状にもあったけど、手先がずいぶん器用なのね。明日もこの子の髪を結ってやってちょうだい」

「かしこまりました」


 礼儀正しく頭を下げながら、アリッサは横目でそっとお嬢様の様子を窺った。

 上機嫌な母親の傍らで、ジゼルは必死に涙を堪えるように、唇をへの字に引き結んでいた。

明日から新章〈夜の子ら〉編に入ります。

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