幕間 カーマイン伯爵邸
王妃様主催のお茶会のため、明日は王都に向けて出立するという日の朝。
カーマイン伯爵領の荘園屋敷では、誰もが早朝から浮足立っていた。
常勤の使用人たちに加え、臨時雇いの荷運びやら、新顔のメイドやらがあちこちで右往左往している。
「おい、そこの」
背後からかけられた声に、新顔のメイドがびくっと肩を跳ね上げた。
白銀の鎧の胸に、カーマイン家の紅薔薇の紋章。昇り始めた朝の光が、金髪を眩く縁取っている。
「あっ! こ、これはペルゾイス殿下」
「ペルゾイス卿だ」
即座に訂正したものの、続く口調はだいぶ穏やかになっていた。
「このような場所に何の用かな」
「も、申し訳ございません! なにぶん初めてのお屋敷なもので、道に迷ってしまいました」
「この先は騎士団の宿舎と厩舎だけだ。第一、メイドの仕事場は屋敷の中だけだろう」
「はい。おっしゃる通りなのですが、実は……お嬢様を探しておりまして」
そう言うと、メイドはもじもじとエプロンの裾をひねくり回し、上目遣いにペルゾイスを見た。
「今日からお嬢様のお召し替えを担当することになり、先ほどお部屋に伺ったのですが、なぜかどこにもお姿がなく……」
ペルゾイスは「チッ」と舌打ちすると、小さく「またか」と呟いた。
「わかった。ジゼル嬢については心当たりがあるから、私のほうで探しておこう」
「えっ、よろしいのですか?」
「構わない。どうせ私もこの後巡回に出るところだった。もし上役に何か訊かれたら、そのように答えておくといい」
「ありがとうございます。殿……ペルゾイス卿!」
軽く手を振って行きかけたペルゾイスは、だが、ふと足を止めて振り向いた。
「ジゼル嬢付きの新しいメイドか。名は?」
メイド服姿の少女は、お仕着せのスカートを摘まんで深々とお辞儀する。
「はい。私はアリッサと申します。どうぞ、お見知りおきくださいますよう」
本日、ちょっと短めなので後でもう一話投稿します。




