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ハズレスキル〈線〉が、引くほど強くなるんですが ~捨てられ転生令嬢の無自覚最強サバイバル~  作者: 円夢
カーマイン迷宮

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幕間 王の庶子

累計ページビュー5,000PV突破!

ありがとうございます!

「支店長。支店長ってば」

「………んあ?」


 肩を揺すられて目が覚めた。

 ドラン商会の地下室だ。


「起きてください。おやっさんがお呼びっすよ」

「父さんが? ――いや、それより『カルビ』の様子はどうだ。あれから何か動きはあったか?」


 急きこんで訊ねるエミールに、メイド服の少女はゆるゆるとかぶりを振った。


「いいえ。てか、何かあればちゃんと起こしてますって。そういう約束だったっしょ?」

「すまん。だがどうにも気になって」

「それは私も同じっすよ」

「ああ。……だな」


 ぼりぼりと脇腹を掻きながら、大欠伸をひとつ。

 いくら若い身体に転生したとはいえ、三徹明けは流石に堪える。


「あー。ちなみにですが、ちゃんとお風呂に入って綺麗にしてから行ってくださいよ」

「へいへい」


 背中でひらひらと手を振りながらドアに向かったエミールは、だが、少女の次の言葉にぴたりと足を止めた。


「あと、おやっさんがいるのは応接室です」

「商談中か? だったら……」


(俺は、顔を出さない方がいいのでは)


 父はともかく兄達は、エミールが商売に関わることにいい顔をしない。


「いいえ。おやっさんと支店長にお客様です」


 そう言うと、少女は意味ありげに一拍おいた。


「ペルゾイス卿ですよ。カーマイン騎士団の」


◆◆◆


 できる限り支度を急いだが、それでも待たせてしまったのだろう。

 エミールが応接室に入るなり、父とペルゾイス卿が、揃って不機嫌そうな顔を向けてきた。


「貴様か。あの何とかいう機械を動かしているのは」


()()()()()()()、ね)


 自販機が設置されているのは、王国内でもごく一部の迷宮(ダンジョン)だけだ。

 そのせいで、保守的な貴族の中には胡散臭い目を向ける者も数多い。


(というか、そのせいで思うように普及できずにいるんだが………)


「はい。お初にお目にかかります。ガイウス・ドランが三男、エミール・ドランと申します」


 胸に手を当て、深々と頭を下げる直前、エミールは素早くペルゾイスの全身に目を走らせた。


 王の庶子ペルゾイス。


 輝く金髪に整った顔立ち。華やかな騎士服越しでもよくわかる、鍛え抜かれた体つき。


(確かに現王陛下の面影がある。が………)


 婢女の母から生まれた彼に、王位継承権はない。

 彼が「ペルゾイス卿」としか名乗れぬゆえんだ。


「それで、閣下。本日は父と私めにどういったご用向きでしょう」


 あくまで恭しく訊ねるエミールに、ペルゾイスは傲然と言い放った。


「第六層の人物についてだ」


 ――どくり。

 エミールの鼓動が跳ねた。


「と、おっしゃいますと?」

「とぼけるな。貴様が考案した機械を使い、あの者を援助していたことはすでに確認済みだ」


 ペルゾイスの横で、ガイウスが同意するように頷く。


(くそっ。父さんはこいつにどこまで話した?)


 自販機の記録(ログ)は、ガイウスにも閲覧権限がある。

 だが魔法袋(マジックバッグ)の販売ログは、あの後すぐに書き換えたから、父は見ていないはず――……。


 エミールは大人しく頭を下げた。


「おっしゃるとおりです。迷宮が封鎖された後も、しばらくの間、六層の自販機は稼働しておりました。ですが」


 ここでエミールは顔を上げ、ペルゾイスと父を交互に見ながら、しっかりした口調で続ける。


「伯爵家より食料の販売停止が通達されて以来、迷宮内の自販機の食料および水の供給はすべて止めてございます。お疑いでしたら、今すぐ最新の記録をお出しすることもできますが」


 その場合、カードの利用者名は非表示に――いや、それでは却って怪しまれる。イニシャル表示にしておくか。

 などと胸の内でめまぐるしく算段していたエミールだったが、ペルゾイスは存外あっさり「結構だ」と首を横に振った。


「そのことについては、ガイウスがすでに確かめた」


(……へえ。最初に援助の件で詰めてきたのは、先にこっちの弱みを握ろうとしたわけか。やるな、若造)


 ペルゾイスは「エミール」よりも二つ年上の十九歳と聞いている。


(だが、こっちは享年三十歳。大人の経験値を舐めんなよ)


 自販機のログが目当てでないなら、本題はこの先にあるということだ。

 案の定、ペルゾイスはここでテーブルの上にぐっと身を乗り出した。


「今日私がここへ来たのは、件の人物について、内々に知っておいてほしいことがあったからだ。――実は」


 そう言うと、ペルゾイスは一段と声を低めた。


「件の人物は、我々騎士団が内密に追っている犯罪者なのだ。あまりに凶悪な者ゆえ、生死を問わず確実に身柄を押さえなければならぬ」

「なんと」


 その話は初耳だったのか、ガイウスも驚いたように目を見張っている。


「それゆえ、其の方らにも協力を頼みたい。今後、もし迷宮内で怪しい動きがあれば、逐一私に報告するように」


◆◆◆


(――俺はあの『牛丼カルビ』のことを、どれだけ知っているだろう)


 地下室に帰る道々、エミールは自問し続けていた。


「凶悪犯」とは何者か――名前も年齢も性別も、ペルゾイスは一切明かさなかった。いくら訊いても「機密だ」の一点張りで。

 エミールが知っていることといえば、


 ――六層の祠の自販機で、一週間の間、毎日規則正しく食料と水を買い続けたこと。

 ――『牛丼カルビ』という名前から、おそらく転生者だろうこと。

 ――彼が送った魔法袋を持って忽然と姿を消した三日後、突如として()()空中庭園の自販機で初級回復薬(ポーション)を購入したこと……。


(ランクAの石の巨人(ストーンゴーレム)の頭のてっぺんだぞ? どうやって辿りついたんだ)


 かつてAランクパーティを組んでいた叔父たちでさえ、あの場所を発見できたのは奇跡のようなものだったのに。


 地下室の扉を開ければ、いつものようにコンソール前の椅子に座ったメイド服姿の少女が振り向く。


「おかえんなさい、支店長。ペルゾイス卿の用事は何でした?」

「『牛丼カルビ』の正体が知りたい」


 エミールはずばりと切り出した。


「調べてくれないか――()()()()」 

感謝の気持ちを込めて、本日お昼頃もう一話投稿いたします♪

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