24.ストーンゴーレム
……ズン!
……ズズン!
地響きと共にガタガタと小屋全体が振動した。
窓の外で、大樹の葉がざわざわと揺れている。
眠い目を擦りながら起き上がろうとした私は、再び来た大きな揺れに、たまらず床に手をついた。
(近っ……! 何これ)
毎朝恒例、石の巨人のお散歩だ。それはわかってる。
でも近い! 普通に震度6とかありそうな感じ。
巨大な足が地面を踏むたび、ズズン! と突き上げる衝撃が走り、それを追うようにゆっくりとした横揺れが続く。
うわ、この揺れ方気持ち悪い。酔いそう。
天井からぱらぱらと埃や砂が降ってくる。
こんなことなら、夜明かしはツリーハウスの中じゃなく、外の地面にすべきだった。
こみ上げる吐き気に耐えながら、どのくらい時間が経っただろう。
……ドズン!
一際強く、突き上げるような衝撃がきたのを最後に、揺れはようやくおさまった。
私はやれやれと息をつき、ほうほうの体でツリーハウスから地面に下りる。
安定した地面に足がついてホッとしたのも束の間、今度は岩棚の方角から、聞き覚えのある道路工事のような音が近づいてきた。
飛竜の群れである。
私は慌てて大樹の陰に身を隠した。
コンクリートを掘り返す削岩機も顔負けの喧しさで嘴を打合せながら飛来した群れは、広場の台座の上空まで来ると、何かを待つように旋回し始める。
ヴン!
白い光が台座を一周し、転移門の魔法陣が浮かび上がった。
飛竜たちがいっせいに飛膜をたたみ、水面めがけて急降下する水鳥のように、次々と魔法陣に突っ込んでいく。
最後の一羽が転移門の向こうに消え去ると、あたりはようやく静かになった。
「…………はあ」
私は、へたりと地面に座り込んだ。
朝っぱらからえらい目に遭った。
(てか、ここにいる間は毎朝、こんなのが繰り返されるわけ?)
ないわー……。
こんな所からはさっさと逃げ出すにかぎる。
そのためにも「備忘録 4」に書いてあった「ゴーレムが眠りにつく日」ってのがいつなのか調べなきゃ。
昨日、岩棚の巣で揺れが来た時は、ゴーレムの姿は見なかった。
まずはゴーレムの現在位置を探さないとだ。
私は肌身離さず着けている魔法袋の紐をきゅっと締め、飛竜の岩棚があるのとは反対の方角に向かって歩きだした。
◆◆◆
広場の裏手は、こぢんまりした果樹の植え込みになっていた。背の低いポリーやピアラの木が十数本、肩を寄せ合うように並んでいる。手を伸ばせば届く実をもいでは齧りながら、植え込みの間を縫って歩く。
とりあえず、食べ物に困らないっていうのはいいよね。うん。
あちこちの枝に、灰白色のウィングエイプが鈴なりになっているところを見ると、ここが「僕」の言っていたコロニーなのかもしれない。
金のトサカのあの子ザルも、この中のどこかにいるのかな……。
などと考えていたら、ほんの少し歩いただけで、もう石組みの高い壁に突き当たった。
見た感じ2メートル以上ありそうだけど、あちこちにある出っ張りを伝えば登れないこともない。
試しによじ登ってみると、てっぺんは城壁のような作りで、人が二人並んで歩けるほどの幅があった。
乾いた風が、私の髪を揺らして吹きすぎる。
城壁の縁に近づき、外を見下ろした私は息を呑んだ。
「え。ここどこ?」
緑の草原は跡形もなく、代わりに深い亀裂の入った赤茶けた大地が広がっている。
振り向けば、城壁は庭園をぐるりと円形に取り巻いており、私がいる場所のちょうど向かい側――といっても、走れば一分とかからなそうな距離に、ここに来る時に通った低いトンネルが見えた。
城壁の直径は、せいぜい学校のグラウンドほどだろうか。
その向こう、遠くに見える緑の筋が、おそらくあの草原なのだろう。
それだけ見通しがいいのに――360度景色が見渡せるのに――ゴーレムの姿はどこにもない。
「え」
と、いうことはですよ。
ある考えが、ゆっくりと浮上してくる。
「待って、待って」
異様なくらい近かったゴーレムの足音。
祠にいたころ、毎朝遠くに見えたゴーレムの頭上付近を輪を描いて飛んでいた鳥の群れ。
鳥なら、あんな遠くから見えたはずがない。
それこそ――飛竜なみの大きさでもないかぎり。
「マジか――――――っ!!!」
ストーンゴーレムの頭のてっぺんに作られた庭園に、私の叫びが響き渡った。




