2.境界線
『〈防衛線〉が発動します』
『〈防衛線〉が発動します』
『〈防衛線〉が発動します』
『〈防衛線〉が発動します』
「だーっ! もう、うるさいうるさいうるさーい!」
ひっきりなしに聞こえるこの声、オフにできないもんじゃろか。
私がいきなり叫んだせいか、シャドウパンサーが一瞬動きを止めた。
岩壁の裂け目の奥である。
入口に陣取ったシャドウパンサーが、何とか私を引きずり出そうと前足を奥に突っ込んでくる。その都度〈防衛線〉が発動し、シャドウパンサーが慌てて足を引っ込める――。
という攻防が、もうどのくらい続いているだろう。
途中、寝落ちしそうになったくらいだから、一日くらいは経ったかもしれない。
幸い、このスキルは居眠り中も発動するので、私はいまだにこうして生きてるわけだけど。
(でもなあ……)
これってジリ貧なんだよね。
今のところ、岩壁からしみ出してくる水を舐めてるおかげで、脱水症状だけは免れているけれど。
ここでこうしているかぎり、遠からず飢え死にする未来しか見えない。
助かるためには、このシャドウパンサーを倒すしかないのだ。
とはいえ、手持ちのスキルは三つだけ。
(転生ものあるあるだと、こういう時、「ステータス」とか念じれば一覧が出るんだよね……って)
――――――――――――――――――――
スキル:
〈線〉Lv.1 任意の場所に線を引く
〈境界線〉Lv.1 任意の場所に越えられない線を引く
パッシブスキル:
〈防衛線〉Lv.3 敵意に対し自動で〈境界線〉を引く
――――――――――――――――――――
……出たよ。
これはアレか。この世界のステータスウィンドウ的な?
ていうか。
〈防衛線〉って〈境界線〉と同じものだったのか。
改めて、〈防衛線〉が発動したときのことを思い出す。
紅線に突っ込んできたシャドウパンサーが、顔に切り傷を負ったことを。
(越えられない線を越えようとして傷を負った?)
そして〈線〉も〈境界線〉も、任意の場所に線を引ける――……。
「グルルルル……」
またしても裂け目の向こうにシャドウパンサーが現れた。
岩壁に半分遮られたその顔を、青白く光るその瞳を、今初めて真っ向から睨み返す。
それが気に入らなかったのか、魔物はカッと口を開け、威嚇するように咆哮した。
大きく開いたその口の奥を、私は人差し指でポイントする。
「〈境界線〉」
始点は私の指の先。終点は向かい側の壁。
そう思い描いたとおりに、細く紅い光の筋が黒豹の口の中に消えていき――……。
「ガアアアアア!」
シャドウパンサーはもんどりうって洞窟の床に倒れ込み、びくびくと痙攣して動かなくなった。
『シャドウパンサーを倒しました。スキル〈境界線〉がLv.4になりました。スキル〈境界線〉から〈紅線〉が派生しました』
え、嘘。マジで?
倒した……の? ていうか、また何かスキル増えてるし。
こわごわ裂け目の入口まで這っていき、シャドウパンサーに目をやった私は即座に激しく後悔した。
頭がね。そのね。
ぱっくり二つに切れててね……。
うん。
古い特撮ものとかで、レーザービームで怪獣が真っ二つになったりするじゃん? あんな感じ。
急いで顔を背けた私が見たのは、床一面に散らかったポーターの死体と、その横に忽然と現れた白く輝く魔法陣だった。
『階層主討伐により、転移門が開きました』
そして――。
重たい軋みを上げながら、それまで固く閉ざされていた入口の鉄扉が、ゆっくりと開き始めた。




