22.樹上の小屋
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自販機に入れたカードの残額が「832」から「332」に減った。
錆の浮いた筐体の下部についた把手を引くと、乾ききった泥や錆の破片をぱらぱら落としながら、四角い開口部がぽかりと開く。
蔦の奥で見つけた自販機は、前回見たものよりかなりレトロなデザインだった。
開口部は手動だし、スピーカーがいかれてるのか、音声もノイズ混じりだし。
売っているのは水と初級回復薬、それに「旅人のパン」の三つだけ。
しかも、パンと水は相変わらず「販売中止」だ。
それでもカードはちゃんと使えるし、初級とはいえ回復薬があるのはありがたい。
ヤクルトサイズの瓶に入った初級回復薬を、焼け爛れた両腕にふりかければ、じくじくした傷口の赤味が少しずつ引いていく。ちょっと触れただけでも飛び上がるほどだった鋭い痛みも、どうにか我慢できる程度の鈍痛くらいにおさまって、私はほっと息をついた。
――にしても。
第六層の自販機が最近のモデルだとしたら、こっちは明らかに初期モデルだ。
おそらく、改良に改良を重ねてあそこまで進化させたに違いない。
前世で一時期流行った「開発者の苦労譚」的なドキュメンタリーの主題歌が脳裏をよぎる。私の中でスーツ姿のオジサマだった中の人のイメージが、エンジニアっぽい作業着姿に切り替わった。
ともかく、この自販機に私はまたも助けられたわけだ。
私は古びた筐体にそっと手を置いた。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
あらためて見ると、自販機は大樹の絡み合った根と根の間にぎっちりはまり込んでおり、ロープのように太い蔦がその前を覆い隠している。
――って、待って、待って。
これ、本当にロープじゃね?
緑色に塗られ、蔦みたいに擬装してあるけれど、明らかに人の手で作られた縄梯子が自販機のすぐ横で揺れている。
梯子に沿って目を上げていくと、頭上に差し交す太い枝の上に、やはり緑色にペイントされた小屋があった。
◆◆◆
「……お邪魔しまーす……」
ツリーハウスの屋根にはぶあつく落ち葉が降り積もり、ドアの把手には一面に土埃がこびりついていた。
一応ノックはしてみたものの、中に生き物の気配はない。
思い切って把手を回すと、ドアはあっさり内側に開いた。
「わあ」
ファンタジー世界の樹上の小屋といえば、細い木を編んで作った椅子とか、生成りのタペストリーとか、いかにもエルフが住んでいそうなナチュラルで素朴な雰囲気を予想してたんだけど、それは見事に裏切られた。
壁一面を埋め尽くす金属の管や機械の集合体。窓際に据えつけられた望遠鏡。床には黴と湿気でぼろぼろになった本や紙が散乱し、奥の床には蔦を編んで作られたハンモックの残骸が転がっている。
それらすべてが分厚い埃にまみれ、過ぎ去った歳月の長さを物語る中、片隅の収納机だけが、塵ひとつなく飴色の光沢を保っていた。
おそらく、かつてここに住んでいた誰かが〈封印〉系のスキルを持っていたに違いない。
上部についた把手を引けば、前面を覆う板が下り、それが机の天板になる。
露わになった奥の棚には使い込まれたインク壺と細いペン、そして「備忘録 4」と題された革表紙のノート。
ぱらりと開けば、
モーリスが死んだ。
最初のページに書かれた震える文字が、私の目に飛び込んできた。
広場の転移門は使えない。
あれは上空に開く門だった。
感謝を込めて、本日お昼ごろにもう一話投稿いたします。




