幕間 エミール
かちゃり。
地下室のドアが開き、メイド服を着た少女が入ってきた。
「支店長~。伝書っすよ~」
ここ数日、昼夜を問わずコンソールに張りついていたエミールがうっそりと振り返る。翡翠色の目の下に、どす黒い隈がくっきりと浮いていた。
「差出人はティール辺境伯っす」
「……そうか。もうそんな時期か」
伝書を受け取り、さっと目を通したエミールは、飲みかけの茶器や乱雑に積み重なった書類の中から小切手帳を引っ張り出した。
さらさらとペンを走らせる。
「当座の支援金はこの額で。他にも必要な物があればご用立てしますと伝えてくれ」
「うす。……あと、カーマイン迷宮から討伐隊が戻ってきたっす」
「何っ!?」
エミールは弾かれたように身を起こした。
「それで、六層にいた人間は? 無事に保護されたのか!?」
「や、そのことなんすけど」
言いながら、少女は小脇に挟んでいた新聞を上司に渡す。
「何か、六層にもとんでもない変異体が出たそうで。騎士団にも犠牲者が出たらしいっすよ」
一面にでかでかと載った新聞記事を、エミールは食い入るように目で追った。
六名の騎士からなる討伐隊を率い、カーマイン迷宮に潜ったペルゾイス卿は、第五層に出現したレッサーコカトリス(ランクC)を単独討伐。だがその後、安全確認のために下りた第六層で、深層にしか出ないはずのウォーアントの女王、レギナ・フォルミカに遭遇した。
「騎士団員は三人が死亡。二人が重軽傷を負ったため、ペルゾイス卿は撤退を指示。伯爵家は引き続き迷宮を閉鎖すると発表……」
エミールは新聞を放り出し、どさりと椅子の背にもたれかかった。
六層の自販機が使われなくなって今日で二日。
てっきり、彼が送った魔法袋の食料で食いつないでいるものとばかり思っていた。
だが、もしそうなら、なぜ新聞は騎士団員以外の生存者、あるいは死者について報道しない?
「レギナ・フォルミカって、あれっすよね。見つけた獲物をぐるぐる巻きにして、深層の巣に持ち帰るっていう……」
少女の痛ましそうな声に、エミールは片手で目を覆った。
もしそうなら、例の転生者――「牛丼カルビ」の生存は絶望的だ。
「くそっ!」
エミールが、思わず拳を机に叩きつけた時。
ププッ。
コンソール画面から、迷宮内の自販機が使用されたことを告げる音がした。
――は!?
エミールは少女と顔を見合わせる。
討伐隊が戻った今、迷宮内に残っている者はいないはず………。
「六層の自販機をチェックしろ!」
「うす!」
だが六層の自販機に新たなログは増えていない。
「支店長、ありました。ここっす!」
少女が指さしたログデータを、エミールは信じられない顔で凝視した。
カーマイン迷宮でも、かなり初期のころに設置した自販機の一つ。
十年近くも使われることのなかった自販機で、「牛丼カルビ」が「初級回復薬 500G」を買っていた。




