17.孵化
やや残酷な描写があります。
卵のヒビはみるみる広がり、中から濡れた飛膜の先端が突き出した。
ぽすん。
バランスを失った卵が横ざまに倒れる。
飛膜に続いて、濡れそぼった黒い毛に覆われた二本の手が、内側からぱりぱりと殻を破って現れた。
(んん?)
飛竜に五本指の手なんてついてたっけ?
頭上を旋回する成体の群れを見れば、サイズこそとんでもないけれど、首から下はコウモリとほぼ同じ。腕に相当するものは、鉤爪のついた飛膜だけだ。
不思議に思って見守るうちに、卵はついに真っ二つに割れた。
飛竜によく似た黒褐色の短い体毛に、同色の飛膜。頭のてっぺんにだけ、トサカのように金色の毛が立っている。
飛膜を除けば、その姿は――、
どこをどう見てもサルだった。
◆◆◆
細長い手足に、長い尻尾。
大きくつぶらな黒い瞳が、何ともいえず愛らしい。
子ザルは小鳥のような仕草で首を巡らせ、二つの卵を見つけると、その目をぱちりと瞬かせた。
そうして、片方の卵をごろんと倒し、巣の端めがけて転がしていく。
「えるる。えるる」
その鳴き声が「よいしょ、よいしょ」に聞こえるのは、私の気のせいだろうか……。
泥と草でできた低い壁に卵が引っかかると、子ザルはその下に器用に潜り込み、両脚をぐっと踏ん張って壁の外に放り出した。
おおう。
可愛い顔して、えげつないことしやがりますねえ。
残る卵は一つだけ。
自らの危機を察知したのかどうか、卵はふいに大きく揺れ始め、てっぺんにぴしりと小さな亀裂が入った。
「えるるっ! えるるるるっ!」
子ザルは焦った様子で声を上げ、飛膜を広げて一足飛びに岩棚の縁から戻ってきた。
孵化しかけの卵を乱暴に転がし、巣の縁まで持っていく。
けれど、今回は途中で卵がぱっくり割れて、中から今度こそ飛竜のヒナが現れた。
生まれたてでまだ目も開かず、うまく立てずにいるヒナを、子ザルがぐいっと持ち上げる。
そのまま壁の縁に押し上げ、容赦なく崖下に突き落とした。
「………………」
これは、あれだ。
動物もののドキュメンタリーで見たことがある。
托卵。
カッコウが有名だけど、モンスターもやるんだ……。
「えるー」
子ザルはいかにも「一仕事終えました」という顔で満足そうに息をついた。手近に転がっていたウォーアントの胴体を抱え込むと、頭からばりばり食べ始める。
ううむ。
これはどうしたものか……。
見るからに美味しそうに生き餌をほおばる子ザルを見ながら、私はちょっと悩んでいた。
(こいつもモンスターなんだよね)
とはいえ、せいぜい大人の猫くらいのサイズしかない子ザルを一方的にぶっ殺す、というのは、心理的にかなりの抵抗がある。
考えている間にも、子ザルはウォーアントの胴体を食べ終え、オウルディラにとりかかっていた。
そういえば、私もお腹が空いた。
おまけに喉もカラカラだ。
幸い、肩から斜め掛けにしていた魔法袋は無事だった。
私は中から「汲みたての井戸水」と「旅人のパン」を取り出すと、子ザルとは反対側のすみっこに座って食べ始めた。
その途端――。
『〈防衛線〉が発動します』
食べかけのオウルディラを放り出し、子ザルが黒い大きな瞳でじっとこちらを見つめていた。
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感謝の気持ちを込めて、本日もお昼ごろにもう一話投稿いたします♪




