12.進化個体
累計ユニークアクセス500人突破! ありがとうございます!
予想しておくべきだった。
〈境界線〉を張り巡らした防壁の中で、私はひそかに臍を噛んだ。
防壁は四方を囲っているだけで、上はぽっかりと空いている。
いや、しかし今からでも〈境界線〉で天井を作れば…………。
ブブッ。
迷う私を嘲笑うように、進化個体が翅を広げて飛び立った。
あっという間に防壁を越え、巨大な鎌と化した前肢を私めがけて振り下ろす。
〈紅線〉!
無詠唱で放った二本の熱線は、けれど、空中であっさり躱された。
「こいつ!」
でかいくせに動きが速い。
とりあえず、頭上でクロスするように二本の〈境界線〉を張る。
再び襲ってきた鎌が、線に触れて半分欠けた。
いける。
この調子で線の密度を上げていけば……。
『スキルの上限に達しました。これ以上〈境界線〉は張れません』
――マジか!
全身から血の気が引いていく。
念には念をと、みっしり張った〈境界線〉。
あんなに厚くすべきじゃなかった。
上限があると知っていたら、もっと数を絞ったのに。
進化個体は、私の出方をうかがうように上空でホバリングしている。
今なら〈紅線〉が当たるかもしれない。
――けど、〈紅線〉にも上限があったとしたら?
ここまで、〈紅線〉は〈境界線〉ほど多用していない。
その代わり、Lv.12の〈境界線〉に対し、〈紅線〉はまだLv.7だ。
上限の本数がレベルによるとしたら、いつ弾切れになってもおかしくない。
やがて痺れを切らしたのか、進化個体が再び襲ってきた。
天井の〈防衛線〉を器用に避けて、鎌が防壁内に切り込んでくる。
「っ!」
ごろごろと地面を転がって避けた私を見て、進化個体がわずかに首を傾げた。
ガラス玉のような複眼に、怯える私の顔が映る。
間近に見えるその口が、にやりと笑ったように見えた。
――見抜かれた? 反撃できなくなったことを。
〈紅線〉。
至近距離で撃った熱線は、進化個体が咄嗟に頭を振って避けたせいで、片側の複眼を削っただけに留まった。
ブブブブッ!
それでも、怒ったような羽音を立てて、進化個体は上空に退避する。
鎌の攻撃は来ないかわり、〈紅線〉を撃っても避けられる距離だ。
進化個体は、その場でホバリングしながら、腹部を丸めて前方に突き出した。
――何か来る!
猛烈に嫌な予感がした、次の瞬間。
尖った尻の先端から、スプレー状の液体が降り注いだ。
◆◆◆
防壁内に細かな水滴と霧が降り注ぐ。
同時に、ツンと酸っぱい刺激臭が鼻をついた。
咄嗟に俯き、両手で口を覆う。
大きめの水滴が落ちた草の葉に白っぽい斑点が現れ、白いワンピースのところどころが黄色く変色した。
まずい。
これ、絶対有毒の酸か何かだよね。
頭上がほぼ素通しの今、直線的な鎌の攻撃は避けられても、広範囲に降ってくる毒は避けようがない。
ちらりと上空を窺えば、進化個体は再び腹を丸めたところだった。
次いで降り注ぐ酸のシャワー。
水滴が掠めた頬に刺すような痛みが走り、続いて焼けるような灼熱感が来た。
「痛……っ!」
一度で致命傷にはならないにしても、こんなのを何度も浴び続けていたら、ただで済むとは思えない。
私はワンピースの裾を捲り上げ、スカート部分で頭を覆った。そうしておいて、地面に小さく蹲る。
下にはシュミーズを着ているから、これでしばらく直撃はしのげるはずだ。
とはいえ、この調子で酸をスプレーされ続けていたら、あと何分持ちこたえられるか……。
――線じゃなく、範囲で防げるスキルがあれば。
範囲で。
〈区切り〉Lv.1 任意の範囲を区切る
こ れ だ !!!
感謝をこめて、本日この後続きを追加投稿します。




