11.籠城
明らかに量を減らしたウォーアントの死骸。
そして……。
ゴリッ。パキッ。
格子の向こう、死骸の堆積の下あたりで聞こえる乾いた咀嚼音。
これはあれですね。二度目のお食事タイムですね。
不揃いな格子に目をやれば、太い線、つまり私が持っている中で最高レベルの〈防衛線〉は二本だけ。
残りはすべて後から張った〈境界線〉だ。
つまり、残る敵は二体だけ。
問題は、その二体が仲間の死骸を喰ってどうなるかってことだけど……。
「また強くなるよね。間違いなく」
喰って、脱皮してより強い個体に変異するモンスターだ。
なら、今のうちに外に出て倒してしまう?
「はは。無理でしょ、そんなん」
これまで何とか戦ってこれたのは、決して越えられない線を隔てた、いわば籠城戦だったからだ。そこを出て単騎で敵を倒しに行くなんて、自分の強みをみすみす投げ捨てるようなものだ。
なら、今の私にできることは……。
私は魔法袋から、「旅人のパン」と「汲みたての井戸水」を取り出した。
旅人のパンは仄かに甘い固焼きビスケットのようで、口中の水分ががっつり持っていかれるところに冷たい井戸水を流し込む。
自販機の中の人からこの袋を買ったのがわずか数時間前、今朝早くのことだなんて嘘みたいだ。
――「夏のボーナス先取りセール」か。
くすっ、と思い出し笑いが漏れる。
何となく。本当に何となくだけど、中の人は男の人のような気がする。
前世の職場にたまにいた、寡黙で仕事ができるタイプのオジサマたち。たぶん、あんな感じの人じゃないかな。
――会えるといいな。
いつか。なるべく近いうちに。
見上げた視線の先には、晴れわたった夏空のような深い青がどこまでも広がっていた。
◆◆◆
いつの間にか、格子の外の咀嚼音がやんでいた。
嵩がだいぶ減ったとはいえ、死骸の山は依然としてそこにあり、ここから敵の姿は見えない。
見られたら攻撃される、と知った上で死骸を残したのなら、相手にもそれなりに知能があるということだ。
とはいえ、私の方も食事だけしてたわけじゃない。
私の四方は、今や縦横に張り巡らされた赤い糸で囲われていた。
もともとあった〈防衛線〉と〈境界線〉の格子に、さらに〈境界線〉を重ねて補強したのだ。
おかげで作業中に〈境界線〉がLv.7にアップした。
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スキル:
〈線〉Lv.2 任意の場所に線を引く
〈境界線〉Lv.7 任意の場所に越えられない線を引く
〈紅線〉Lv.7 任意のターゲットに対し複数の熱線を放つ
〈区切り〉Lv.1 任意の範囲を区切る
パッシブスキル:
〈防衛線〉【ON】Lv.12 敵意に対し自動で〈境界線〉を引く
後天スキル:
〈無詠唱〉 詠唱なしでスキルを発動する
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とりあえずこれで、さっきみたいなバックアタックの心配はないはずだ。
カサリ。
死骸の山の中で、紙が擦れるような音がした。
千切れたアリの頭がひとつ、ころころと山を転がっていく。
やがて、死骸をかきわけるようにして、それが姿を現した。
◆◆◆
胴体に比して小さな逆三角形の頭部には、両側に赤く染まった複眼と、頭頂部にやはり赤い三つの単眼があった。
体色は鮮やかなオレンジと黒のトラ縞で、尖兵相が持っていた大顎がない代わり、前肢が巨大な鎌状に発達している。
そして、何よりも。
そいつの背には、四枚の翅がついていた。




