10.第二波
デスホッパーの死骸はもはや跡形もなく、そこには累々と積み重なった運搬相のアリの抜け殻と、青黒い身体をテラテラと光らせた大型個体の集団だけがいた。
キチチチチッ!
真っ先に現れた個体が頭をもたげ、発達した大顎を震わせる。
アリ達の目が一斉にこちらを向いた。
◆◆◆
最初の特攻で死んだ運搬相の数だけ〈防衛線〉の数は減っている。
今、私と彼らを隔てているのはもはや「網」ではなく「格子」だった。
彼我の距離、およそ十メートル。
格子の奥で、私は人差し指を構えた。
「〈紅線〉」
デスホッパーと戦った時には絹糸のようだった熱線は、レベルアップを重ねた今、ストローくらいの太さに育っている。
最前列にいた一匹の大型個体の顔が、熱線を浴びて半壊した。
『ウォーアント(尖兵相)を倒しました』
ギヂッ! ギヂヂヂヂッ!
アリ達が一斉に大顎を噛み合わせ、黒玉のような複眼が真っ赤に染まる。
(わあ、昔アニメで見たやつだ)
なんてどうでもいい考えが浮かんだ直後、攻撃モードに変異したアリ達が雪崩れを打って押し寄せてきた。
◆◆◆
「〈紅線〉」
「〈紅線〉」
「〈紅線〉」
尖兵相に変異したウォーアントは、運搬相より二回りも大きくなっていた。
そのせいか、〈紅線〉が掠めたくらいでは死なない。
ヘッドショットを決めれば一発で倒せるけれど、動く的に正確に当てるのは難しい。
というわけで、大して数を減らせないうちに、〈防衛線〉の格子の前には夥しい数のアリが押し寄せていた。
前回の特攻で死んだ運搬相のアリたちの死骸の山をよじのぼり、〈防衛線〉の格子に脚をかけたとたん、その脚先が切断される。
そこに私が〈紅線〉でヘッドショットを決めれば、
『ウォーアント(尖兵相)を倒しました』
無機質なメッセージと共に、格子を構成していた〈防衛線〉が一本消失する。
「くっ……。〈境界線〉!」
消えた〈防衛線〉の後に、釣り糸くらいの太さの紅いラインが現れた。
これまでさんざん使い倒してきた〈紅線〉や〈防衛線〉に比べ、〈境界線〉のレベルはまだ低い。
それでも「越えられない線」であることには変わりなく、すかさず頭を突っ込んでこようとした個体が複眼を灼かれてのけぞった。
そこを再び〈紅線〉でとどめをさす。
〈防衛線〉が消える。
〈境界線〉で補強する。
『ウォーアント(尖兵相)を倒しました。スキル〈境界線〉がLv.5に上がりました』
そこからは同じことの繰り返しだった。
『ウォーアント(尖兵相)を倒しました』
『ウォーアント(尖兵相)を倒しました』
『ウォーアント(尖兵相)を倒しました』
倒しては補強。倒しては補強。
こちらもだんだん慣れてきて、いちいち口に出さなくても〈紅線〉や〈境界線〉が発動するようになってきた。
『ウォーアント(尖兵相)を倒しました。〈境界線〉がLv.6に上がりました。後天スキル〈無詠唱〉を獲得しました』
おお、何か定番のスキル来た!
そんなことを思えるくらいには、この戦法にも慣れてきた頃。
気が緩んでいたのだろう。
『防衛線が発動します』
真後ろから声がした。
はっと振り向くと、いつの間に回り込んだのか、ノーマークだった背後の草むらから一匹のウォーアントが躍り出し、防衛線を飛び越えて襲いかかってきた。
すかさず二本の〈紅線〉で十文字に切りつける。
『ウォーアント(尖兵相)を倒しました。スキル〈紅線〉がLv.7に上がりました』
安堵で崩れそうになる身体を叱咤して、本隊のいる正面に向き直る。
そこには不揃いな太さの線でできた赤い格子と、夥しい数の死骸の山が………山………が…………?
「減ってる…………」
さっきまで小山のようだった死骸の堆積が、明らかに低くなっていた。




