7.デスホッパー
こんにちは! 私、ジゼル・カーマイン。
二十代でストーカーに殺されて異世界転生した十歳の女の子。
転生先は大金持ちの伯爵家で超ラッキー♪ と思う間もなく、「託宣の儀」で生えたスキルがショボ過ぎたせいで迷宮に捨てられちゃったの。
階層主とバッチバチにやりあったり、同じ転生者で自販機の中の人に助けてもらったりしながら、今まで何とか生きてきたけど、追っ手の騎士団から逃れるために飛び込んだ草原で、でっかいバッタに見つかっちゃった。
私、これからどうなっちゃうの~?
――というわけで。
現在、肉食バッタと睨み合いの真っ最中である。
石畳から草原に降りた直後のエンカウントだった。
ゆうに二メートルはありそうな虫体は、あたりの草と同じような緑色。口の周りに乾いた血がこびりついているところを見ると、この前私が見たやつと同じ個体かもしれない。
私はといえば、その場に立ちすくんだまま、頭の中はパニック状態だった。
え、どうすんのこれ。〈紅線〉で攻撃する? てか〈防衛線〉は何やってんの。今防衛しなくてどうすんの。まさか、こんな時に限って故障中?
不意に、バッタが太い後ろ足を持ち上げた。
ギチギチギチッ! ギチギチギチギチッ!
これまでさんざん聞いたことのある音が、大音量で響き渡る。
「カ、〈紅線〉っ!」
無我夢中でバッタを指した指先から、細く紅い熱線が一直線に迸る。
バッタの眉間に、ぽつりと紅い点が咲いた。
次の瞬間、バッタの口がガッと開く。
「ひいっ!」
動揺したせいで指がぶれ、熱線がバッタの顔を縦断した。
同時に、
『〈防衛線〉が発動します』
おなじみの声と重なって、もう一本の紅線が横ざまにバッタの顔を薙ぐ。
縦と横。二本の線が、デスホッパーの顔の上で十文字に交錯した。
『デスホッパーを倒しました。スキル〈防衛線〉がLv.5になりました。スキル〈防衛線〉のオンとオフが選べるようになりました』
『スキル〈紅線〉がLv.5になりました。〈紅線〉を2本同時に出せるようになりました』
「……た、倒せた……」
安堵のあまり力が抜けて、へなへなと地面に座り込む。
デスホッパーのバラバラ死体から極力視線を逸らしながら、私は呼吸を整えた。
――あの肉食バッタ、「デスホッパー」っていうんだ。知らなかった。
領地の特産品リストになかったってことは、素材にも食用にもならないモンスターなんだろうな。
へたりこんだまま、ステータス画面をイメージする。
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スキル:
〈線〉Lv.2 任意の場所に線を引く
〈境界線〉Lv.4 任意の場所に越えられない線を引く
〈紅線〉Lv.5 任意のターゲットに対し複数の熱線を放つ
〈区切り〉Lv.1 任意の範囲を区切る
パッシブスキル:
〈防衛線〉【ON】Lv.5 敵意に対し自動で〈境界線〉を引く
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〈防衛線〉のところに【ON】という表示が増えていた。
そこに意識を集中すると、表示が【OFF】に切り替わる。なるほど。
とはいえ、密生した草のそこここからは、相変わらず唸り声や虫の羽音が聞こえてくる。迷宮の中にいる間は、〈防衛線〉は切らないほうがいいだろう。
――って、こんなことしてる場合じゃない。
いつ転移門が開いて騎士団が出てくるかわからないのだ。
〈防衛線〉を【ON】に戻し、スカートについた土をはたいて立ち上がった。
目指すは、毎朝石の巨人が横切っていくのとは正反対の方向だ。
背の高い草をかき分けながら、できるだけ足音を殺して進む。
命がけの迷宮行は、まだ始まったばかりだった。




