第二十九話 春の便り
窓。
葡萄畑に草が生え、枝の切れ目に水が光る。
広い空の青さが、胸に沁みる。
畑の塀の白さが、影を柔らかくしている。
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飛行機の雲。
右から左へ。
車が走る。
左から右。
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カチ、カチ…
古い時計。
磨かれた木製の家具。
丸いテーブルを囲む三人。
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腕を組む年配の男。
両手で額を支える男。
テーブルの中央に書類。
一枚を眺めるエルアン。
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「……もう、後はない。」
「……道は他にもあるのでは。」
「……乗り越えなければ。」
「……まだやるべきことはあります。」
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窓の外にも男たち。
作業着。
手袋。
紐の束。
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「土地を守ることも、手放すことも、
どちらも良いのではありませんか。」
「経営力や技術力を高めるための努力は、
常にしなければなりません。」
「協力し合える道があるのなら、
きっと、遺るのだと思います。」
「この土地を、
愛する心が。」
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一刻が過ぎる。
男たちが去り、静寂だけが残る。
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エルアン。
一人。
椅子に腰を掛け、前かがみになっている。
両膝に両肘。
手には剪定鋏。
念入りに、鋏の手入れをしている。
ブルル。
スマートフォンが震える。
画面を見る。
ルナからのメッセージ。
|これを見て。
リンクを開く。
目が徐々に開く。
ガタン。
立ち上がる。
強く、まばたきする。
……タッタッタッ。
足音が近くなる。
コンコン。
カチャ。
「あなた!」
小包を差し出す。
……
カイの文字。
ゆっくりと受け取る。
丁寧に開く。
エアパッキンが巻かれた板。
同封の封筒。
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一枚の手紙。
エルアン・ロシュさんへ、
これは試作品です。
ここまで出来る様になりました。
craft chocolate - navy moon
ー カイ・アサンテより
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一枚の写真。
鞘に収められたマチェーテ。
その下の、剪定鋏。
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