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第四話 ゾンビ

森の中は、思っていたより静かだった。


風の音はある。

葉が擦れる音もある。


なのに——


「……静かすぎる」


ぽつりと呟く。


「いい勘してるな」


前を歩くショッピットが答えた。


「こういうとこはな、“いない”んじゃねぇ。“潜んでる”んだ」


「……潜んでる」


「音立てたら終わりだ。奴らは音に過剰に反応する」


その言葉に、無意識に足音を殺す。


土を踏む感触だけが、やけに意識に残る。


しばらく歩いたときだった。


「……ぐぅ……」


小さな音。


顔が少し赤くなる。


「……今の」


「腹だな」


即答だった。


「ち、違っ……!」


「安心しろ。よくある」


ショッピットは苦笑しながら、背負っていた袋を下ろす。


「ほら」


差し出されたのは、乾いた固形の食料。


「食っとけ。倒れられても困る」


「……ありがとう」


少し迷って受け取る。


口に入れると、味はほとんどしない。


それでも——


「……控えめに言って、おいしい」


「そりゃどうも」


ショッピットは周囲を警戒したまま答える。


そのときだった。


——ガサッ


森の奥で音。


二人同時に止まる。


「……聞いたか」


「……うん」


ショッピットはすぐにしゃがみ込む。


「低くなれ」


息を潜める。


——ガサガサッ


今度ははっきり。


何かが暴れている。


そして——


「……やめて……っ!」


か細い声。


「……人だ」


「行くぞ」


二人は駆け出した。


木々を抜けた先。


その光景に、希望は息を呑む。


倒れている大人。


しがみつく子ども。


囲む影。


「……ぐ……ぁ゛……」


湿った唸り声。


「クソ……!」


「離れろ!!」


——ダンッ! ダンッ!


二体、倒れる。


残りがこちらを向く。


「来るぞ!」


——パンッ!


一体、崩れる。


もう一体が飛びかかる。


「ッ——!」


——ダンッ!


静寂。


荒い呼吸だけが残る。


「……助かった……か」


ショッピットが周囲を見る。


希望は子どもを見ていた。


震えている。


「……だいじょうぶ?」


近づく。


子どもが顔を上げる。


——違和感。


「……あ……」


腕に、歯形。


深く、はっきりと。


「……離れろ」


「え?」


「いいから離れろ!」


強い声。


後ろへ下がる。


「……噛まれてる」


「……え……」


「噛まれたら終わりだ」


空気が凍る。


「……どういうこと」


「感染する」


「……感染……」


「……いたい……」


その声が刺さる。


「……助けないの?」


「無理だ」


即答。


「でも——!」


「無理だ」


はっきりと言い切る。


「時間の問題だ。あいつらと同じになる」


子どもの呼吸が乱れる。


「……こわい……」


動けない。


ショッピットが銃を構える。


「……やめて」


「……見てろ」


「やめてって言ってるでしょ!!」


沈黙。


「……ぁ……」


喉が震える。


目が濁る。


「もう始まってる」


——ダンッ


倒れる音。


風が吹く。


「……これが“ゾンビ”だ」


「ゾンビ……」


「ああ。元は人間だ」


「……」


「噛まれたら感染。助からねぇ」


「空気じゃ感染しない」


「それにさっきも言ったが音には敏感だ」


その瞬間——


ドタ ドタ ドタ ドタ


「……来たな」


「木に登れ!!」


二人は一斉に動く。


枝を掴み、登る。


下を見ると——


ゾンビで埋まっていた。


「……やば……」


「銃は最後の手段だ。撃てば集まる」


ショッピットが低く言う。


「平原で撃ったら終わりだぞ」


少しの沈黙。


「あと、こいつらゾンビには種類がある」


「……種類」


「走るやつ。普通のやつ。もっと厄介なのもいる」


希望は黙って聞く。


「迷ったら死ぬ」


その言葉が落ちる。


希望は、さっきの子どもを見た。


もう、人ではなかった。


胸が締め付けられる。


「……行くぞ」


「……うん」


もう振り返らない。


***


——五日後。


「疲れたー……」


「もうすぐだ。我慢しろ」


森を進み続けていた。


ゾンビも何度かやり過ごした。


銃は、使わずに。


「ねえ」


「ん?」


「なんで都市部行くの?」


「生存者探しだな」


少しだけ笑う。


「それと——」


言葉が止まる。


「……あれ見ろ」


前方。


光。


森の終わり。


「……出口……」


二人は歩く速度を上げる。


そして——


森を抜けた。


遠くに見える、高い建物。


いくつも並ぶ影。


「……街……」


「都市部だ」


ショッピットが言う。


「こっからが本番だ」


希望は小さく頷いた。


「……分かってる」


一歩、踏み出す。


——新たな地獄へ。

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