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第三話 変なおじさん

「……おーい、生きてるかー」


遠くで、間延びした声がする。


「おーいって。死んでたら返事できねぇか」


(……うるさい……)


意識が、ゆっくり浮かび上がる。


まぶたが重い。体もだるい。

それでも、無理やり目を開けた。


ぼやけた視界の中に、人の顔がある。


「……ん……」


「お、やっと起きたか」


見知らぬ男だった。


無精髭に、少し乱れた髪。

着ている服は汚れていて、ところどころ破れている。


でも——目だけは、しっかりしていた。


「……だれ」


かすれた声でそう言うと、男は肩をすくめた。


「ひでぇな。人が助けてやったってのに」


「……助けた?」


「ああ。森の手前でぶっ倒れてたぞ。丸一日は寝てたな」


「……そんなに……」


体を起こそうとして、ふらつく。


男が手を差し出してきた。


「ほら、掴まれ」


「……いい」


反射的に拒む。


一瞬、間が空く。


けれど男は気にした様子もなく、手を引っ込めた。


「警戒心バリバリだな。まあ、正解だ」


髭を撫でながら呟く。


「……ここ、どこ」


「どこって……おいおい、大丈夫か?」


少し驚いたように眉を上げる。


「ここは“第4コロニー”だ」


「……第4コロニー?」


「あぁ。知らねぇのか」


(なにそれ……)


聞いたこともない。


「……説明、いるか?」


私は小さく頷いた。


知りたいことが多すぎる。


ショッピットは軽く息を吐いた。


「ここは本来、人が住んでた場所だ。でっかい生活圏ってやつだな」


少し間を置いて、


「でも事故が起きた」


声のトーンが少し落ちる。


「環境がぶっ壊れて、人がまともに住めなくなった。他のコロニーより、ずっと危険だ」


「……危険……」


「ああ。だから“死のコロニー”なんて呼ばれてる」


その言葉に、胸がざわつく。


「で、俺はショッピット。他のコロニーから来た、ただのおっさんだ」


「……変な名前」


「否定はしない」


即答だった。


「お前は?」


少しだけ迷って、


「……希望のぞみ


「希望、か。いい名前だな」


ショッピットは立ち上がり、周囲を警戒するように見渡す。


その動きは無駄がない。


「で、希望。このコロニーのどっから来た?」


「……分からない」


「分からない?」


「気づいたら、白い場所にいて……」


ロボの姿が、頭をよぎる。


「……やっぱりか」


ショッピットが小さく呟く。


「やっぱりって?」


「いや、気にすんな」


軽く流された。


(……なんか知ってる)


でも、今はそれどころじゃない。


「ここは安全じゃねぇ」


その言葉の直後だった。


——ペタ。


森の奥から、あの音がした。


体が一瞬で強張る。


「……いる」


「だろうな」


ショッピットはすぐに銃を構えた。


「来るぞ」


木々の間から、影が現れる。


一体。


その後ろに、もう一体。


低い唸り声。


「……ぐるあぁ!!」


「また増えてやがるな……」


ショッピットが舌打ちする。


「撃てるか?」


一瞬だけ迷って——頷く。


「……うん」


拳銃を構える。


手が震える。


(落ち着け……)


呼吸を整える。


距離が縮まる。


「頭を狙え。止まらねぇぞ」


一体が急に速度を上げた。


「っ!?」


「来る!」


——パンッ!


弾は肩に当たる。


止まらない。


「もう一発!」


「分かってる!」


——パンッ!


今度は頭。


感染体が崩れ落ちる。


「よし!」


だがもう一体が目前まで迫っていた。


「希望、下がれ!」


「っ——!」


腕が伸びる。


間に合わない——


——ダンッ!


銃声。


目の前で、感染体の頭が揺れ、崩れ落ちる。


希望はその場に尻もちをついた。


「……あぶねぇな」


ショッピットが銃を下ろす。


「ぼーっとすんな。死ぬぞ」


「……ごめん」


「謝るな。次外すな」


短い言葉。


でも、強い。


「……やっぱ撃てるな、お前」


「……訓練してたから」


「誰にだよ」


答えられない。


ショッピットも追及しない。


そのとき——


「……ぁぁ……」


奥から、さらに音。


「チッ……まだいるか」


次の瞬間、


複数の影が一斉に動いた。


「ヤベェな……!」


ショッピットが叫ぶ。


「逃げるぞ!!」


「っ!」


二人は一斉に走り出した。


枝をかき分け、足場を踏みしめる。


後ろから、追ってくる気配。


「こっちだ!」


数分後。


ようやく気配が遠のいた。


「……はぁ……はぁ……」


息が荒い。


「……撒いたな」


ショッピットが周囲を確認する。


「で、これからだが」


少し呼吸を整えてから言う。


森の奥を指差す。


「都市部に行く」


「……都市……」


「生き残りが集まってる場所だ。拠点もある」


「……人、いるの」


「ああ。少なくとも、ここよりはな」


少しの沈黙。


「……行きたい」


ショッピットは頷いた。


「だろうな。けど——」


森を見る。


暗く、深い。


「ここ通る。最短ルートだ」


「……嫌な感じする」


「いい勘してる」


ニヤッと笑う。


「でもな、行くしかねぇ」


銃を構え直す。


「一人より二人の方がマシだ。……まあ、怖かったら逃げてもいいがな」


少しだけ考えて、


「……一緒に行く」


そう答えた。


「よし、決まりだ」


ショッピットは歩き出す。


「はぐれんなよ、希望」


その背中を見る。


(ロボとは、全然違う)


雑で、適当で、うるさい。


でも——


「……ねえ」


「ん?」


「なんで助けたの」


ショッピットは少しだけ考えて、


「……見捨てる理由がなかった」


そう言った。


私は何も言わなかった。


ただ、その言葉を繰り返す。


風が吹く。


森がざわめく。


どこかでまた、唸り声がした。


「……行くぞ」


「……うん」


二人は、暗い森の中へ足を踏み入れた。


——そこが、さらに危険な場所だとも知らずに。

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