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第二話 動く屍

暗闇の中で、私はしばらく動けなかった。


本棚の裏に隠された通路は、冷たくて狭い。

膝を抱え、耳を澄ます。


遠くから聞こえてくるのは、何かが倒れる音と、引きずるような足音。

それから——沈黙。


「……ロボ」


名前を呼ぶ。

返事は、ない。


胸の奥が、じんわりと痛んだ。


毎朝起こしてくれて、

ご飯を作ってくれて、

いつも私の話を聞いてくれた存在。


——もう、いない。


そう思った瞬間、喉が詰まる。

誰もいない通路で、言いようのない寂しさに襲われた。


「……やだ」


小さく呟く。

けれど、戻れないことは分かっていた。


通路の奥に、淡い光が見える。

私は立ち上がり、壁に手をつきながら進んだ。


途中、使われていない部屋がいくつも並んでいる。

どこも静まり返り、生活の気配がない。


(……ほんとに、私だけなんだ)


十年以上ここで暮らしてきたはずなのに、

改めてそう思うと、背中が冷えた。


——そのとき。


ペタ。


背後で音がした。


体が強張る。


振り返ると、暗がりの中から人の形をした影が現れる。


一体だけじゃない。

その奥にも、もう一つ。


(来てる……!)


足が震える。


奴らは、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


——殺るしかない。


私は思い出す。

自分の部屋、ベッドの下。

見ないようにしていた箱。


そこから、持ち出してきたもの。


拳銃。


訓練で何度も触れた感触が、手の中に蘇る。


「……落ち着け……」


自分に言い聞かせる。


怖い。逃げたい。

でも——


「ロボの、仇だ」


一体が姿を現し、腕を伸ばしてくる。


——今だ。


引き金を引く。


乾いた音。

衝撃が腕に伝わる。


奴は壁に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。


息が荒くなる。


もう一体が、低く唸る。


「……ぁ……」


今度は迷わなかった。


引き金を引く。

二度、三度。


——静寂。


私はその場に座り込んだ。


手が止まらない。

震えが収まらない。


涙が、ぽたぽたと床に落ちる。


分かっている。

泣いている場合じゃない。


それでも、止められなかった。


「……行かなきゃ」


無理やり立ち上がる。


通路の先に、ひとつの部屋があった。


今までの空虚な部屋とは違う。

つい最近まで、誰かがいたような気配。


私は慎重に中へ入る。


——その瞬間。


巨大なスクリーンが起動した。


光が部屋を照らす。


「……なにこれ」


映し出される文字列。

意味は分からない。


だが——ひとつだけ、目に入った。



【重要参考資料】

《恒星間航行用宇宙船〈エウリュディケ〉》

・各コロニーとそのシステム構造について——



プツン。


画面が消えた。


「え……?」


数秒しか表示されなかった。


理解する間もなかった。


それから数分、部屋を調べる。

だが、有力な情報は見つからない。


「……はぁ」


思わずため息が漏れる。


(ここなら、何か分かると思ったのに……)


奴らが何なのか。

なぜ襲ってくるのか。


何も分からないまま。


私は部屋を出た。


表示に従って進むと、

やがて大きな扉の前に辿り着く。


手をかざす。


——開いた。


その先にあったのは、


「……外……?」


空。


高く、どこまでも広がる青。

流れる白い雲。


頬を撫でる風。


足元には柔らかな草。

遠くには木々が揺れている。


映像でしか知らなかった景色。


私は息を吸う。


少し湿った、懐かしい匂い。


胸の奥が、わずかに軽くなる。


しばらく、空を見上げていた。


「……ん……」


不意に、強い眠気が襲ってくる。


足元が揺れる。


(……限界……か……)


丸一日、眠っていない。


歩き続けていた。


意識が遠のく。


「……ロボ……」


その名前を最後に、


私の視界は、ゆっくりと闇に沈んだ。

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