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比留間は祐が消えた後、その場に崩れ落ちた。それはまるで苦境から解き放たれたかの様。映画館で上映されていたのは、実は生の演劇で、鑑賞客を欺ききろうとしていたがために、終演した途端に崩れ落ちて解き放たれたかの様だった。逆に言えば、鑑賞者が上映中の映画を長い間黙って見きって、館内が明るくなったときのあの安堵感。それが込み上げてきたのだろう。
さっきあれほど泣いたというのに、比留間の涙は止まらなかった。あれだけ泣いたけれど、自分は泣くことさえも抑制していた。比留間はそう気づく。
仮面を外して、伽藍堂の床にぽたぽたと涙を落とす。
「ごめんね。私騙されたのよ。みんな成仏していったなんて嘘。みんな後悔を取り除いてすがすがしく現世に戻っていった。私だけなんでこの伽藍堂に居なきゃならないのって何度も恨んだ。でもね、ここはここでやりがいがある。だって自殺者がゼロの社会にできるんだから。自殺した人がちゃんと悔い改めて現世に戻る。そういう手助けを、私はここで、一生していくんだあ……」
きっと飽きちゃったんだ。こんなまっさらな空間を作った私を騙した仮面の男の人は。神様気取りで優しさを使って遊んでいた彼は、きっと飽きちゃった。面倒になったから私を騙して私に『仮面の男』という役を押し付けた。仮面の男という役をあの男は放り投げた。
「ユウ君がさ、私と仮面の男の役を代わってくれるか聞きたかったんだ。ごめん。そんな小さい理由だけど嘘ついちゃった」
何かを捨てなきゃいけないんだと思った。神様みたいに優しくなるには、何かを犠牲にしなくちゃいけないんだ。誰かに嘘をつかなきゃいけない。誰かに迷惑をかけなきゃいけない。そうしなければ、置かれた環境に嵌まってしまって抜けられなくなる。そんなモノクロの鳥籠の中で、優しい人間をしていても、ずっとそのままだ。鳥籠の中で咲くどころか、鳥籠の中でさえ咲けなくなっていることに気がつける。何かを犠牲にして、誰かを犠牲にしなきゃ、この広い彩られた世界には羽ばたいて行けない。
きっと優しい人間ばかりの世界だったら、犠牲なんて言葉も要らないんだろうな。
それでもやろうと思った。自殺者が誰もいない世界を作るために。




