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可惜夜には満点の空に月が咲くという。水面のいくらか上を漂う霞も、ゆらゆらと路頭に迷った浮舟も、すべて月の光が調和してくれるという。真っ黒な海面上で、迷うことをやめた浮舟の背中を押すように、顔を出した陽炎がそっと吐息で波を立てる。
俺の告白に比留間さんは、「違うの。違うの」と、終いには泣き出していた。俺のために泣いてくれるのかと思うと、軽く胸に染みた。でも考えてみるんだ。彼女が泣いていたのはどういうときだったか。俺が見てきた中だけで言うのなら、比留間さん自身の中で折り合いをつけたときだ。何かを我慢した代償として泣く。きっとこの比留間さんの涙は、比留間さん自身が、思うようにいかなくて泣いているのではない。
「ユウ君は私が何とかするから。私が元の世界に戻してあげるから。だから、もう少しだけこのままでいさせて。ずっと触れたかったんだから。ずっと触りたかったんだから」
そう言って比留間さんは俺の胸に縋りついていた。腕をきつく、俯く泣き顔はぐちゃぐちゃになっていた。
「捨てたはずなのに、こんなにも縋りつくなんてね。馬鹿みたい。捨てられる訳なかったのに」
その言葉の余韻が、ずっと響いていた。




