妹は嗤う
改正投稿しました。
(一体どうなっているのだ••••••ッ!?)
行方不明だったホワイライト伯爵令嬢がイラの森近郊で保護された。
その報せは直ぐに令嬢の父であるホワイライト伯爵に伝えられた。
王宮内の休憩室で休んでいた伯爵は、優れなかった顔色を驚きのあと歓喜に染めた。
だがそれも演技の内。
物心ついた時から己を偽ってきたが故にできた、反射的なものだ。
伯爵の内心は真っ青だった。
侯爵にとって、自分の子供は愛すべき対象ではない。子供は侯爵家の跡取りであり、侯爵家を発展させるための、はっきり言って"道具"だ。
祖先が守り、伯爵が人生を賭して築いてきた家を守るのが自分の子供の役目。
自分《伯爵》がそうだったように。
貴族の子供は使えなければ生まれてきた意味がない。
貴族の家系に使えない道具《子供》はいらない。
伯爵の父━━━十年以上前に鬼籍に入った先代のホワイライト伯爵━━━がそう考えたように。
インクのなくなったペンや割れた食器と同じ。
使えない物は捨てる。
それが伯爵の"普通"なのだ。
ホワイライト伯爵家は王国の唯一であり無二の召喚士の家系。代えの効かない駒。
だからこそ、その威厳を、威光を、失うわけにいかない。
だから侯爵は道具《娘》を捨てた。
侯爵とその妻は貴族界に溢れた政略結婚同士だ。お互いが利益を得る事を目的に成立した契約結婚。
そこに愛は芽生えなかった。
情すらあるかどうか怪しい、そんな冷めた関係の中で信頼を築けるはずもない。
白髪黒目の子供が生まれた時。
真っ先に妻の"不倫"が疑われた。
『家の跡取りができる前に他の男と関係を持つなどッ、一体何を考えているのだ!?』
『そんなふしだらな事、わたしはしておりません!!』
『嘘をつけ!では"アレ"は何だというのだ!?間違いなく貴様の腹から生まれたのだぞ!?』
親と似つかない色を持った子供達が生まれた時、彼女達は病弱と嘯いて隠され生きることになった。
王国に残る召喚魔法の使い手は、伯爵含め四人。しかし伯爵以外は全員女性だ。
姉妹が召喚魔法を受け継いでいれば、それだけで伯爵の実子であるという証明になる。
それだけが、姉妹の命綱だった。
姉妹の生命線が途絶えたのは、十五歳の誕生日を迎える前日。
その日、彼女達が召喚魔法を使えないことが判明した。
伯爵は即断。
姉妹をボロ切れ一枚で馬車に放り込ませ、誘拐にみせかけて捨てさせた。
確実に殺す為、大陸最恐の魔境『イラの森』に娘達を捨てた。
王宮の休憩室で伯爵は落ち着いていた。
今頃"アレ"は凶暴な魔物に食い殺されているだろう。
伯爵が娘を捨てた証拠はない。
無駄に悪知恵が働く馬鹿な貴族はしばらく伯爵を疑うだろう。
屋敷の警備が疎かだったのではないか。
警備の件は仕方がない。
伯爵の血を一滴も継いでいない"アレ"を家に残し、社会に存在を知られて大火傷を負うより今のうちに軽い火傷を負っておく方がまだマシだ。
伯爵家に恨みを持つ者の犯行ではないか。
伯爵の道化は完璧だ。
大変珍しい清廉潔白な上位貴族。
慈悲深く、孤児院も複数経営している。
最近はスラムを無くす活動にも参加し、多額の寄付金を団体に納めている。
そう、完璧だ。
完璧な道化だからこそ、ルイーナが同族嫌悪を感じるのだ。
完璧な計画だったのだ。
『Simple is best.』
無駄に凝った計画を練るより、極自然に、実際に起こりうる事を実現させる。それが一番怪しまれず、且つ証拠が残らない。
なのに、伯爵の元に駆け込んできた騎士が告げたのは、娘の帰還。
馬車で領地に戻る途中賊に襲われ連れ去られた。身包みを剥がれ、殴られた。大人しくしなければ殺すと脅された。
馬車の荷台に乗せられ森を進む中魔物に襲われた。賊が魔物に応戦している隙をついて逃げた。
振り向かず、足を止めず、手を繋いでひたすら走った。
森を抜けた先で騎士に保護された。
意識を失い一人の騎士に抱えられた姉妹の姉。
伯爵の目の前で泣きながら何があったのか、必死に伝えようとする姉妹の妹。
伯爵は人目も憚らず抱き着いてくる娘を抱き止める。
親子の感動の再開に涙ぐむ者までいた。
だが伯爵はそんな事を気にしている余裕はない。
なぜ"コレ"がここにいる?
なぜ"嘘"の説明をする!?
なぜ、なぜなぜ、なぜッ!!
コイツは嗤っているのだ!?
次話は一時削除した『愚かな王妃は愛に踊る』です。




