ホワイライト伯爵姉妹令嬢
私達姉妹は生まれた時から"異質"だった。老婆のような真っ白な髪と反する黒い瞳。
私達が生まれたのはヴァータス王国という芸術大国の歴史ある貴族の家系-----王国建国から存在し、今まで続く由緒正しき召喚師一族-----ホワイライト伯爵家。
召喚師とは、魔物と契約し使い魔とする無属性に属する特殊魔法を扱う者のことで、魔法使いとは一線を匿す。魔法使いの魔法は使えないが、魔物使いとして高いスキルを持つ召喚師は稀有な存在だ。努力なんて陳腐な物が介入する隙はない。全て生まれ持った才能で決まるのだ。契約できる魔物も、全て。
ホワイライト伯爵家は代々優秀な召喚師を輩出してきた名家。ヴァータス王国には他に優秀な召喚師を産み落とす家がないので、伯爵家は権力争いとはある意味で無縁だった。放っておいても周りが擦り寄ってくる。貴重な召喚師の血を欲して。
権力争いとは無縁で、伯爵の地位も本当に名前だけだ。公爵家、末端の王族でもその権力を欲してホワイライトの名に媚びを売ってくる。
しかし、現ホワイライト伯爵の実娘に生まれながら、私達姉妹には召喚魔法が使えなかった。二人とも"召喚の儀"を行なっても何も、それこそ動物の一匹すら現れなかったのだ。
ただでさえこの見た目故に、異質で邪魔者扱いだった私達は、最後の希望も-----最初から、生まれた時から-----失った。
実母から暴力を振るわれ、実父からも邪魔者扱い。私達のことを知る数人の使用人からも虐げられた。
そんな辛い日々の中でも、味方はいた。私には妹がいた。妹には姉がいた。
妹は内気で、内向的で、いつも私の側にいた。私の背に隠れていた。
私が姉として妹を守らなければならない。だから私は笑顔でいようと決めた。私は明るくしていれば、妹も笑ってくれる。
いつかこの家を出よう。そして姉妹二人で暮らしながら、幸せを見つけよう。
そう思っていた矢先、私達姉妹は捨てられた。どこだかわからない不気味な森の中。初めての外出先が森で、しかも捨てる為って、女神様はどこまで私達に試練をお与えになるのだろう。
いつものように私に抱き着いてくる妹の背を撫でながら、大丈夫と呟く。妹が少しでも安心できるように。
魔物の狼から妹を庇いながら、恐怖に体が震える。私の意識は、そこで暗転した。
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外界から隔離され、必要最低限の使用人以外と関わってこなかった私達姉妹ですが、遂に今日、捨てられました。
着の身着のまま、いえ、ボロ切れ一枚で放り出されました。魔境と言われ、死の体現とまで言われるイラの森に。話でしか聞いたことがありませんでしたが、馬車から放られ、一目で理解しました。
双子の姉に抱き着きながら、死ぬんだな、と。内心、とても冷静だったと思います。
姉には内気で気弱と思われているようですけど、私はただ無関心なだけです。
内気ではなく、無関心。
気弱ではなく、無関心。
何にも関心を持てない。
私は物心ついたときからこうでした。
姉の背後に隠れていたのは、常に姉の側にいたのは、人付き合いが面倒だったから。意図したことではありませんでしたが、私の怠惰な行動のおかげか姉は自分が妹を守らなければいけない、と無駄に逞しくなりました。
イラの森に捨てられ、いつも通り姉に抱き着き、秋の肌寒さに耐えていると、どこからか重低音が聞こえてきました。
姉は大丈夫大丈夫と繰り返し呟いています。私に言い聞かせ落ち着かせる為か。それとも姉自身に言い聞かせているのか。どちらでも構いません。
ここで死ぬのなら、それが私達の運命ということでしょう。
私達姉妹の目の前に現れたのは体内の魔力を暴走させ魔物となってしまった憐れな狼。
狼の血に濡れた牙から私を守るように、姉は私に抱き着き覆い被さりました。そんなことしても無駄でしょうに。
そんな達観した私の予想は、思いがけない形で、裏切られました。
狼に背を向け、私に抱き着いていた姉は見ていませんでした。
何にも興味が湧かない、それが私の白黒の世界で、まるで私の髪と瞳の色を模したような世界。その逆で、世界の色を私が体現したのかも。
白黒のそこに写ったのは血のような、鮮やかな赤-----美しい紅い瞳でした。
私が視認できたのはその紅色のみで、次の瞬間には狼が地面に倒れていました。
黒いローブを纏った、漆黒の髪と血のように紅い瞳を戴く美しい彼。
彼の瞳に、私は魅せられました。一目惚れです。これが一目惚れですか。最高です。
姉は恐怖の余り気絶してしまったようですね。素晴らしい空気の読みようです。
「貴女方、素晴らしい力を持っていますね•••••••••••私と、取引しませんか?」
私-----いえ、彼に早く名前を覚えてもらいたいですね。私改め、クルは。
「クルは、あなたに一目惚れしました。その強い意志を宿した瞳に魅せられました。クルの望みは-----」
そこまで言って、自分の望みがわからなくなった。クルの望みとはなんだろう。今までただ生きていただけだった。無意味で無価値な人生に終止符を打つ願い。
「••••••••••••クルの望みはあなたの、あなたの望みの行く末を見ることです」
クルはそう言った。言い切った。
彼は目を見開き、驚愕の感情を露わにした。そして感心したというよりは、呆れたように、
「本当に、貴方様の運は底知らずですね」
彼が言った"貴方様"がクル達のことではないことは明らかだ。彼は誰かに仕えているのか。
「私と一緒に来てください。我が主人の御裁可を賜ります。取引の内容はそれ次第。貴方方の未来も、また••••••••」
クルは、彼の手を取った。
この先にどれだけの困難と恐怖、負の感情を向けられようと、後悔はしないだろう。そんな不確定な確信がクルの中にあった。




