後ろ盾を得る為に
遅れてしまいましたが、
あけましておめでとうございます。
今年もお愛読よろしくお願い致します。
「ホワイライト伯爵家のご息女二名が行方不明になられたそうです。伯爵自ら捜索願を提出されに来ておられました。いかがなさいますか?エリザベス様」
公務の合間、貴重な休憩時間に舞い込んだルイーナからの報告。紅茶を傾けながらエリザベスは思考する。
「ホワイライト伯爵の演者っぷりには感心するわ。あの人、娘を嫌っていたはずなんだけど••••••••••」
ホワイライト伯爵家。代々優秀な召喚師-----召喚魔法を扱う、魔法使いとはまた異なる者-----を輩出してきた家系で、エリザベスが後ろ盾として狙っている貴族だ。
娘は病弱だとかで表に出てきたことがなかった。しかし真実は違うらしい。
ルイーナが社交界で知り合ったホワイライト伯爵夫人と少し"お話し"したところ、
『アレはホワイライト家は恥よ。気持ちの悪い見た目で産まれてきた所為で、産んだわたしまでとばっちりに合っているのよ。酷いと思わない?アレを産んだなんて、それ自体をなかったことにしたいくらいだわ』
『少し褒めて、ダンスに誘っただけで気を良くしたらしく、簡単に体まで許して下さいました。積極的な方でしたよ。聞いてもいない事までベラベラと喋ってくださるのでとても楽でしたし』
恐るべしルイーナ。あなたの前世、本当に執事だったの?裏社会の住人だったんじゃないの?エリザベスはそう本気で疑った。
ホワイライト夫人も相当溜まっていたらしい。ルイーナのような身分良し-----同格の伯爵家ではあるが、国外に対する影響力でリガーレ伯爵家に敵う貴族はいない-----容姿良しな若い男に誘われて乗らない女はいないだろうが。
だが、無闇矢鱈にルイーナの誘いに乗ったのは良くなかった。ルイーナは完全にエリザベス派の人間だ。対してホワイライト家は代々中立派を保ってきた。
中立派の貴族夫人が、水面下で王位を争っている派閥の片割れ、エリザベス派の人間と親しげにダンスを踊った。一回だけだったが、踊り終わった後も夫人がルイーナを引き留めていたことは多くの貴族の目に写っている。それが意味する事は大きい。
夜会における異性とダンスを踊る回数には意味がある。
一回であれば身分と立場以外にしがらみはない。同じ異性と二回踊る。それは婚約者同士を意味し、夫婦になる事で漸く、同じ異性と三回以上踊る事が許される。
つまりホワイライト夫人は別派閥の者と一回ダンスを踊ったまではまだ良いが、近づき過ぎたのだ。
既に噂は回っている。ホワイライト伯爵夫人はエリザベス王女殿下の従者と親しげだったと。夫人とルイーナをにこやかに引き剥がした伯爵も、その性格故にルイーナと雰囲気良く話してしまい噂は更に飛躍した。ホワイライト伯爵家はエリザベス王女殿下の派閥に移籍する、と。飛躍し過ぎかもしれないが、これが貴族界だ。
「貴族達への好感度稼ぎでしょう。伯爵は大いに世間帯を気にするお方。貴族や民からは清廉潔白などと謳われてはいますが、その裏は非道、外道、どこまでも残忍な人でなしです。それを隠し切っている実力には勲章を送れるかと」
エリザベスはルイーナの皮肉にクスクスと笑う。
噂のみで家の未来が決まる時もある貴族界で清廉潔白で通っているホワイライト伯爵は、少しの醜聞も許せないのだろう。だから噂を塗り替える為に、元から邪魔だった娘達を誘拐に見せかけ捨てた。
「どうしましょうか。伯爵の悪事を矛に裏で脅そうかと思っていたけど、この状況でそれをすると、逆にこちらの好感度が駄々下がり」
「王弟派の思う壺、でしょう」
ようやく王弟派閥と釣り合いが取れて来たところだ。できるだけノーリスクで事を終え、王太子の座を勝ち取りたい。
「逆に考えてみてはいかがでしょうか」
「逆?」
「はい。ホワイライト伯爵に恩を売り、エリザベス様の派閥に入って頂くのです。先程、伯爵は世間帯を気にするお方だと申し上げましたが、それが伯爵の弱点でもあります」
「---------------成る程、ね」
エリザベスは頷き、ルイーナに命じた。
「ルイーナ。今すぐ、ホワイライト伯爵令嬢達の足取りを追いなさい。そしてわたくしの元へ連れて来なさい。生存が望ましいけど、最悪死体でも構わないわ」
生死を問わず、エリザベスの従者ルイーナがホワイライトの令嬢を連れ帰るだけで伯爵に堂々と恩を売れる。
ホワイライト伯爵家の移籍の噂は消えていない。消えない内に燃え上がらせ、虚像を実像に変えてやろう。
「御意に、お任せ下さい」
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ホワイライト伯爵令嬢の足取りを追い、辿り着いた先は、懐かしくもないイラの森だった。何かとこの森には世話になっているし、妙な縁がある。
ホワイライトの従者一人を攫い、拷問した結果-----勿論証拠を残さないよう、傷を魔法で治し、記憶を消した上で屋敷に戻した-----イラの森近郊に姉妹を捨てたらしい。後はルイーナの長年の感と運で見つけるしかない。
姉妹は狼の魔物に襲われ、絶体絶命の状態だった。後一歩遅けれは死体を引き摺って帰る羽目になっていた。
ボロ切れを纏った姉妹は、一人はもう一人に覆い被さった状態で気絶していた。覆い被されているもう一人は、じっとルイーナを見ていた。
この状況下で無表情な彼女。
更に彼女達の魔力は特殊だった。
これは想像以上に素晴らしい拾い物ではないか。
「貴女方、素晴らしい力を持っていますね•••••••••••私と、取引しませんか?」
果たして、返ってきた応えは、
「クルは、あなたに一目惚れしました」
はい?ルイーナは思わず小首を傾げた。
彼女は尚も続ける。
「その強い意志を宿した瞳に魅せられました。クルの望みは-----」
そしてふと、考え込んだ。彼女-----クルの望みとは一体-----
「••••••••••••クルの望みはあなたの、あなたの望みの行く末を見ることです」
クルはそう言った。言い切った。
ルイーナは目を見開き、驚愕の感情を露わにした。まさかそんな応えが返ってくるとは、全くの予想外。
クルの目は真っ直ぐだ。本心から出た言葉なのだろう。
そして感心したというよりは、呆れたように、
「本当に、貴方様の運は底知らずですね」
ルイーナはそう言った。
脅しに使うには勿体無い逸材だ。脅すのではなく、円滑に話が纏まるかもしれない。伯爵からしてみれば脅しと変わらないかもしれないが、あちらの好感度も保たれ、むしろ更に高まる策だ。
エリザベスの運は底を知らない。彼女は神から愛された者なのか。
ルイーナは共犯者となるだろう彼女に手を差し出した。彼女は握るのか。狂気行きへの切符を。
「私と一緒に来てください。我が主人の御裁可を賜ります。取引の内容はそれ次第。貴方方の未来も、また••••••••」
クルは、ルイーナの手を取った。
それが、答えだ。




