フィナーレを飾るのは最高の賛美
「------------はい、エリザベス様」
突如虚空から現れた黒尽くめの男。
流れるような自然な動作でエリザベス王女に跪き、首を垂れた。
「フェデス主力戦闘部隊の殲滅、滞りなく完遂致しました」
「ご苦労様。随分と派手にやったものね?ルイーナ」
ボロボロになったローブを肩に掛けた黒髪の男------王女殿下と同年代に見える少年、ルイーナ。
「はい。主力部隊の纏め役、グレイルという者が空間魔法に秀でた練度の高い魔法使いでしたので、少々手間取りました」
「そう••••••あなた程の使い手が••••••どうやら部下には恵まれていたようですね?カトリック卿?」
エリザベスは同意を求めるように言った。だがロバートは驚愕の表情のままルイーナを見て固まっている。
「【喪腕のロスト】------ッ!」
ロバートが絞り出した言葉に、エリザベスは笑みを深め、闖入者であるルイーナは微笑み、困惑しっぱなしの騎士団は目を剥いた。
「あら?カトリック卿におかれましては、部下は"道具"などと思っているのかと••••••まさかルイーナのことを覚えていらっしゃるとは意外ですわ。ルイーナ、改めて自己紹介する手間が省けましたね」
白い少し朱のさした美しい頬に手を当て、わざとらしく言った。
「ロスト、貴様ッ!その娼婦の手の者だったのか!?」
「娼婦とは失礼ですわね」
「全くです。エリザベス様、早々にこの猿の口を塞ぎましょう。エリザベス様のお耳が穢れます」
ルイーナがエリザベス王女を庇うように前に出た。ルイーナに残された片腕、右手には短剣が握られている。
「あなたは休んでいなさい。
戦闘部隊との戦いで相当魔力を消費している筈よ。ここはヴァータス王国近衛騎士団"連携最強"の第三騎士団に任せておきなさい」
ヴァータス王国の近衛騎士団は全五騎士団ある。
"前陣速攻"の第一騎士団。
"絶対守護"の第二騎士団。
"連携最強"の第三騎士団。
"魔法最強"の第四騎士団。
"策士後衛"の第五騎士団。
それぞれに特色があり、今この場にいるのは"連携最強"の第三騎士団。集団で戦うことを得意とし、今回のフェデス撲滅作戦では敵を逃さないことが重要だった為、彼らに白羽の矢が立ったのだ。
「------------差し出がましいことを致しました」
後ろに退がったルイーナと入れ替わり、前に出る騎士達。彼らの目には強い光が宿っている。
「ルイーナ?貴様の名前はロストだろう!
まさかこの俺に偽りを名乗っていたのか!?恥を知れ!!」
「••••••••••••ルイーナ、やっぱり自己紹介は必要みたい」
「そのようですね」
唾を撒き散らし、口汚くこちらを罵って来るロバートに、最早ギルドマスターの威厳も無ければ、貴族としての矜持------は元からなかった。
エリザベスはゴミを見る目で、呆れたと溜息を吐く。
「ロストという名前は今回の作戦を遂行する為に名乗っていた、カトリック卿の言う通り偽名です。
真名はルイーナ。
リガーレ伯爵家次男、ルイーナ・フォン・リガーレです」
お見知り置きを、とは言わなかった。
「ルイーナはわたくしの従者兼側近兼執事ですわ。
フェデス撲滅作戦は半年以上前から計画しておりました。ルイーナには偽りの身分と名前を与え、フェデス内部に潜入するよう命じてありましたの」
つまり、全てが全て、エリザベス・フォン・ヴァータス王女殿下の手の上だった。
尻餅をつき、いやいやと首を振りながら後ろに退がるロバート。滑稽な程憐れな姿。
エリザベスとルイーナの口元に嘲笑が浮かんだ。
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騎士によって呆気なく取り押さえられたロバート。最後まで無表情無感情に騎士に抵抗したクープは、ロバートが魔力を抑える枷をつけられた瞬間、操り人形の糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
クープの胸中央に埋め込まれた赤い魔石。裏で"契約の魔石"を売買していた罪も上乗せされたロバートの死刑は決定だろう。
元から闇ギルドのギルドマスターだったロバートに死刑以外の結末はないが。
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二日後。
「今作戦の結果をご報告致します」
ヴァータス王国の都『ヴァイス』に戻ってきたエリザベスとルイーナは、王城のエリザベスの私室にいた。
エリザベスは窓際に置かれた白い椅子に腰掛け優雅に紅茶を飲んでいた。香り際立つストレートティーを淹れたのはルイーナだ。
「ロバート・フォン・カトリック伯爵は略式裁判も省略し、公開処刑が決定致しました。日取りは一週間後の午後三時。
カトリック伯爵家は本家当主が捕まったことで悪事を次々と暴かれ、取り潰しが確定。カトリック卿には妻子がおりませんでした。今の所、貴族の子女と寝たという事実はありません。
分家から主犯三名が斬首刑に、残りの方々は南の修道院に入ることになりました」
「これでまた、王位に近づいたわね」
ニヤリと口の端を持ち上げた、凶悪な笑顔。
そう。全ては"王位"を得る為。
エリザベスにとって闇ギルドを潰すことは過程に過ぎない。
「はい。この国の犯罪の主犯格だった闇ギルドを成敗したことで民衆と下級貴族からの支持が爆発的に膨れ上がりました。
民の間では【次期賢王】と呼ばれているようですよ」
「それは素晴らしいことね。
あなたの評価も飛躍的に上がったわ。
『闇ギルドを撲滅する為に命懸けの潜入任務に就いたエリザベス王女の忠臣』ってね」
醜悪な笑みを顔に貼り付けたまま、エリザベス王女は窓から城下を見下ろす。
「でも、まだ足りないわ。
あなたもこの程度では足りないでしょう?
フィルクス第二王子殿下」
エリザベスはクスクスと笑う。
彼女の側に立つ、"白金の髪"と"金色の瞳"を戴く、片腕しかない少年。
ヴァータス王国の友好国『ウィクトリア王国』の王子。イラの森近隣で魔物に食い殺されたことになっている第二王子。
「お戯れを、エリザベス様。その身分は捨てました。今はエリザベス第一王女殿下の従者です」
フィルクス・フォン・ウィクトリア第二王子殿下。その人だ。
フェデスを潰す為に魔法を乱用したルイーナは、今現在も魔力が枯渇していた。その為、膨大な魔力を消費する《認識偽装魔法》を使い続けることができないのだ。
髪を白金から無難な黒色に。
瞳を金色から得意属性である火属性の色、赤色に。
そうして出来上がるルイーナ・フォン・リガーレ伯爵令息。
「貴方様の望みは王になること。
私の望みは兄上------アーサー・フォン・ウィクトリアが王になること。
この関係は"利害の一致"から始まった"信頼"からくるものです」
エリザベス王女は微笑み城下に目を向けたまま、ルイーナ------フィルクスの言葉に耳を傾ける。
「貴方が望む"武力"と"権力"を私は献上しましょう。
そしてエリザベス様からは私が望む"他国の後ろ盾"を、アーサー兄上に」
持っていたティーポットを机の上に置き、
「私は貴方様に"絶対忠誠"を誓っております。
私は貴方様が私の望みを叶えて下さると、"確信"しております」
ゆっくりと跪いた。
「私が貴方様に向ける"絶対忠誠"と貴方様が私に向ける"絶対的信頼"は究極の、理想的関係にございます」
大きい窓から吹き込む夏の湿った風に揺れる緑色の髪と白金の髪。
「フィルクス・フォン・ウィクトリアの忠誠はアーサー・フォン・ウィクトリア王子殿下へ」
それは絶対に、天地がひっくり返っても揺らがない。
「ルイーナ・フォン・リガーレの忠誠はエリザベス・フォン・ヴァータス王女殿下へ」
エリザベスはクスクスと笑う。
「表を上げなさい。あなたの忠誠はわたくしの中に」
跪く共犯者と笑う共犯者。
これからも、彼らは己が願いの為に歩み続ける。
第二章、完結です。
ここまで読んで下さったことに、最上の感謝を。
本当にありがとうございます。




