半端者に最高の嘲笑を 中編下
遅くなりました。
クープに抱えられロバートが森の中------教会へ戻るように------を駆けているころ。
設置型魔法陣誘導魔法を起動したルイーナは最後の作戦"フェデス主力戦闘部隊の殲滅"を遂行するために、待っていた。
場所は教会裏手の森の更に北奥。
この森と王国の北に広がるイラの森を隔てる大きく深い峡谷『イラの峡谷』。
ルイーナは一人、不気味な闇のみが広がる峡谷の、半歩踏み出せばそこに落ちてしまう場所に立ち耳を澄ましていた。
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聞こえる。
『ザッ』草木を踏み潰す音。
聞こえてくる。
『カンッ』木の枝の上を駆ける音。
聞こえてきた。
『••••••ッ』焦りを感じさせる声。
そして------
『神の御加護を------ッ』
神に、縋る声。
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段々と近付いてくる音の源------フェデス主力戦闘部隊の"残党"。
残党という言い方が正しいかはわからないが、二週間程前にルイーナはこの部隊の構成員四十九人を殲滅していた。
ロバートの執務室から拝借した機密書類によると、戦闘部隊は五部隊に別れ、各部隊十数人構成。つまり、ルイーナが倒した四十九人は約四部隊分に相当する。
単純に考えれば残るは一部隊未満、約十人だ。
その約十人が今、ギルドマスターを救出する為に魔の森と呼ばれ恐れられるイラの森を駆けていた。
真っ直ぐ、ルイーナに向かって。
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フェデスの主力戦闘部隊の纏め役の男------グレイルは憤っていた。
あのボンボン------ロバートのこと------がギルドマスターの座に就いて以来、此方の負担は増える一方だ。
政治や宗教の戦略的裏事情に疎い戦闘部隊の者にも無謀としか思えない、無意味な作戦を立案し、実行する。幹部の連中もどうして止めないのか。上の奴ら全員頭が腐ってるんじゃないか?
そんな、もし上の人間の耳に入ったら問答無用で、慈悲も容赦もなく、拷問の末に殺されるな〜と、割と呑気なことを考えながらはグレイルは走っていた。
走って、跳んで、時に魔法で空間を渡り魔物を撒く。
黒々とした木々の隙間に見えた僅かな月明かり。もう少しでイラの森を抜ける。
さあ、イラの峡谷だ。ここを越えればギルドマスター達幹部が待つ緊急避難場所まで直ぐ。
ギルドマスターを善意で助ける気はさらさらない。グレイルが信じるのは神のみ。胸元の十字架を握りしめ、神に祈る。
(神よッ、我が祈りを聞き届け給へ!)
もう少しで------------
「《精霊よ。我が聖なる祈りを聞き届け給へ》」
聞こえてきたのは、まだ若い男の声。
「《赦されざる闖入者を阻み給へ------グランド・ウォール》」
もう、少しで------?
突如として目の前に現れた光の壁に主力部隊は、壊滅した。
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------------------何が、起こった••••••?
突如出現した光の壁。
それに勢いを殺す暇もなく激突した構成員。ドスッ、グチャ、という擬音では表現しきれない生温い音が聞こえてきたような気がする。
グレイル自身は得意とする空間干渉系魔法空間屈折魔法で空間自体を湾曲し壁を躱した。 深い峡谷のそこに向かってグレイルは頭から落ちていく。
本当に間一髪だった。その証拠に空間を曲げ体を捻り、壁を躱したにも関わらず服の背中部分が破れてしまっている。グレイルが身に纏う濃い深緑色の迷彩柄の服。そこから覗く古傷が目立つ背中。十年近く敵の多いフェデスを武力で守ってきたグレイルだ。初期反応すら感知できなかった魔法による攻撃を回避できたのは、命懸けの実践を乗り越えてきた経験によるところが大きい。
魔法による緊急回避。身体に多大なる衝撃を与えたが、そんなことを気にしている暇はない。いつこの禍々しい峡谷の底に激突するかわからないのだ。早急に体制を立て直さなければ、グレイルに待つのは"死"のみ。
「《テレポート------ッ!》」
胸の奥からせり上がってくる嘔吐感。
頭の内側から金槌で叩かれているような激しい頭痛。
それらを全て無視し、グレイルは峡谷の狭間から地上に転移した。
果たして、グレイルを待っていたのは------
「素晴らしい」
強襲時に聞こえた若い男の声。発せられたのは、賞賛の言葉。
「ただの狂信者の集団ではなかったのですね。以前、フェデスの"主力部隊らしき方々"と手合わせ頂いたのですが、あの時はとても呆気なく終わってしまったものですから•••••••••今回は余り期待をしていなかったのです。
ですが今宵、貴方とこうして出会うことができた。我が主人に感謝しなくてはいけませんね」
心底嬉しそうに、だが真意を悟らせない声色で男は言った。
一方、グレイルは地面に投げ出された格好のまま硬直していた。
空間転移した先にいたのは黒尽くめの若男。フード付きのローブを纏った若い、まだ十代半ば程の少年、だろう。
性別に確信が持てない、持てなくなったのはズバリ奴の容姿だ。風に揺れる艶やかな黒髪は緩く編まれているが背中半ばまである。ルビーを想わせる赤い赤い瞳。目元は少し垂れていて、優しげだ。白い肌にスッと整った鼻腔。一見無害そうな容貌。だがこんな所------有象無象、魑魅魍魎が蔓延る魔の森付近に立ち、恐らくグレイル達を壊滅させた相手だ。油断できない。
------------が、既に勝敗は決しているようなものだ。グレイルは確信していた。一目で理解していた。しかしグレイルが理解することを拒んだ。黒尽くめで、"片腕がない"人物。
風の噂で聞いただけだが、こいつが半年前にフェデスに入団し、ギルドマスター他、幹部達から高い評価を得た冒険者上がりのルーキー------Bランク冒険者【喪腕のロスト】であると。
勢い良く起き上がり、そのまま地面を蹴ったグレイルはロストと距離をとった。同じギルドに所属する者同士だが、この状況下でロストを味方と判断する輩は馬鹿だ。愚か者だ。
グレイル達を壊滅させた結界魔法の上級魔法《グランド・ウォール》。その魔法に使われていた魔力と今目の前にいるロストの魔力反応は、まったく同質のもの。
導き出される結論は------
「フェデスを•••••••••神を、裏切るのか------ッ!?ロスト!!」
荒れ狂うグレイルの魔力。空間干渉魔法と相性の良い魔力は周囲の木々を薙ぎ払った。グレイルの制御下を離れた魔力はロストにも猛威を振るう。
だがロストは平然としたまま、
「裏切る?」
一本しかない腕の手の平を滑らかな頬に当て怪訝そうに言った。
「私は私の目的、任務の為にフェデスに入ったのです。私は一度も貴方方を"仲間"であるとか"味方"であるとは言っていません」
------------そちらが勝手に、勘違いしただけでしょう?
暗にそう言われている気がして、グレイルは額に青筋を立てた。
常人なら立っていられない魔力圧の中、ロストは不意に、
「しかし貴方には」
一撃必殺の自信があった結界攻撃を避けたグレイルに対しては敬意を示すべく、
「真実を知っていただきたいですね」
君主に貰い、用意していただいた身分を明かすべく口を開いた。
「ロストという名は今回の任務を遂行するにあたって用意した偽名です。任務の為とはいえ、好敵手であると認めた貴方には偽りの名を名乗っていたことを謝罪し、訂正いたします」
右手を胸に、左足を背後に引き、
「私の本名は、ルイーナ・フォン・リガーレ。
ヴァータス王国に籍を持つリガーレ伯爵家の次男です。現在はエリザベス王女殿下に従者兼側近兼執事としてお仕えしております。以後、お見知り置きを」
ルイーナは紳士の礼をとった。
報告。
第二章はあと二話程度で完結します。




