半端者に最高の嘲笑を 中編上
前編、中編、後編の三部構成にしようとしましたが、想像を超えて長くなってしまい、中編を上中下の三つに分けました。
轟音をあげながら崩れる教会。
それを冷静な目で見つめるのはこのヴァータス王国の王女エリザベス・フォン・ヴァータス。
王と側室の子供であり不安定な立場にある彼女は、だがそれすらも些細なことと思えてしまう程のカリスマを持っていた。
王女殿下の美しく、威厳と自信に満ちた後ろ姿を僕------バルトはただ見ていた。
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僕は男爵家、下級貴族の出身で、騎士団に入団したのも他に道が無かったからだ。
貧乏貴族の三男。嫡男でもなく、兄が二人もいる僕は穀潰しの邪魔者でしかない。
実家と縁を切り、フォン------名前と家名の間に入る貴族の証------を捨て、実力だけで近衛騎士団に入った。
厳しい規則、苦しい訓練、命懸けの護衛任務。
命の保証などどこにもない場所だったが、それでも実家にいるよりずっと良い。
そして騎士の仕事にも慣れ、騎士団の中でもある程度の地位を得た頃。僕は、運命の出会いをした。
ある事業で成功を収め、その存在を陰から表に出した王族。エリザベス王女殿下。当時十三歳。類稀なる頭脳、人を見る目を持った少女。
騎士団を視察と称して見学に来た王女は、驚くことに騎士団長と剣の稽古を始めた。
驚愕のあまり目を擦る者。
唖然とし、間抜け顔で固まる者。
反応は様々だったが------因みに僕は後者だった------最終的には騎士達は王女殿下の心に胸を打たれた。
貴族は勿論、王族は自衛のために護身術を等しく学ぶ。だが真剣に訓練する者は一握りしかいない。貴族の中では、護衛は護衛騎士に任せればいいという考え方が一般的だからだ。
王女であり、まだ成長途中である少女が土や砂塗れになりながら必死に稽古する様は••••••なんと言うのだろう。自分の語彙力が恨めしい。これでは同僚や先輩に脳筋と馬鹿にされても言い返せない。
兎も角、そんな王女殿下の姿に胸打たれ、この御方の為なら死ねると騎士に思わせたのだ。
僕もその内の一人で、既に王女殿下に生涯の忠誠を誓っている。
貴族出身の者は実家の派閥などに苦しみ、表立って王女殿下を敬えない者もいた。
実は僕の実家も末端------数合わせの為に属しているようなものだが------王弟派閥に属しており、もし勘当されずにいたら王女殿下に堂々と忠誠を誓えなかった。この時ほど『勘当してもらってありがとう』と感謝した瞬間はない。
実家の都合で王女殿下の味方になれない者に怨みがましい目を向けられることも少なくない。
だが、そんな優越感に浸ってもいられない。僕は勘当され、今の身分は平民だ。王族にとって民衆からの支持は重要だが、絶対的な貴族の支持がなければ成立しない。
エリザベス王女殿下の母君は既になく、母君の生家も既にない。盗賊に襲われ、壊滅したのだ。
貴族の後ろ盾はなく、有るのは一部民衆からの支持と、僕のような王女殿下の人柄に魅かれただけでなんの力にもなれない者達。
これでは王弟派閥に負け、次期王位はあの腹黒狸の息子になる。
ああ、説明し忘れていたが、王弟派閥と言われてはいるが実際は"王弟の息子"を王にと推す派閥だ。
王弟は今年で五十六歳。因みに兄である国王陛下は六十歳。どちらもご高齢である。
昔から王弟は野心家で、現国王のカリスマ性と頭脳、護身術と神に愛されたとしか言いようがないハイスペックが無ければ早々に暗殺され王位を奪取されたとまで言われている程だ。
しかし、王女殿下がいることと自分の年齢では王位を継げないと判断すると、次は自分の息子に王位を継がせようと水面下で動き始めた。
ここまで来ると一周回って関心してしまう。
そんなこんなで、今この国はエリザベス王女殿下の派閥と王弟殿下の派閥とが次期王位を狙って争っている状態なのだ。
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僕の立場の話から、王国の政治事情まで話がズレた。話を戻そう。というか、今目の前の状況を説明しよう。
今、僕が所属する近衛騎士団第三師団は極秘任務"闇ギルド『フェデス』の殲滅"に従事している。
国王陛下と王女殿下が合同で調査し、突き止めた世界最大の"権力"と"武力"を有する闇ギルド『フェデス』。
古代語で"信仰"意味するギルド名の通り、過激派教徒集団としても有名な三百年以上の歴史を刻む宗教ギルド。
調査した結果、その仕組みは単純なものだと判った。
武力で武力を制し、権力という名の教会を守る。そして、罪に問われそうになった武力を教会という名の権力で護る。
『人』という字が二人の人が支え合って成立しているように、このギルドも"権力と武力"、"宗教と信仰"が支えあって三百年以上歩んで来たというのだから驚きだ。
驚き、そして軽蔑する。
「------------汚れきった人間に、天罰を」
騎士の鎧の下、首から下げた十字架の上で拳を握り、僕はそう呟いた。




