王女の望み
大変遅くなりました。
愛されたかった。
親に。親戚に。隣人に。友達に。
皆に愛されたかった。
でも、愛されなかった。
私を唯一愛してくれた------違うな------慕ってくれた者は荒くれ者だった。
不良、犯罪者、逃亡者ets••••••他にも社会不適合者ばかりが集まった集団。
世間から疎めれ、蔑まれ、邪魔者扱いを受ける。そんな、くだらない仲間達。
くだらなくとも穴埋めにはなった。
相変わらず両親には愛されず、むしろ恐れられていたが。だからだろうか。
チームが抗争に敗れ、私が死んだときも、メンバーの目に映ったのは"悲しみ"の顔ではなく"勝者の笑み"だった。
穴埋めに、愛を与えるのではなく、与えられる為だけに"仲間を利用"していたから。
(------------でも、仕方ないじゃん------•••••••••私、"愛"が何なのかも、知らないんだから•••••••••)
------------------愛されたい。
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そんな儚き願いは、次世で果たされた。
気づいたら見知らぬ所にいた、なんてお決まりの台詞を頭に受けべながら"私"は隣で眠る男の子を見下ろした。彼の目元は腫れ、自分の目元も何故かヒリヒリと痛かった。
今世の私------いや、わたくしの名前は、エリザベス。エリザベス・フォン・ヴァータス。
『ヴァータス王国』の第一王女。
隣で寝ている男の子は"わたくし"の双子の兄------ルイス・フォン・ヴァータス。
第一王子で王位継承権第一位。
そして"わたくし"を"エリザベス"を愛してくれている人。
愛情深い母親は昨日死んだ。
今日は国葬だった。
泣いていた。
父親であり母の夫だった国王も。
母の専属侍女だった彼女も。
優しく、慈悲深かった母を慕っていた国民も。
双子の兄も。
"わたくし"も。
------------------そっか•••••••••エリザベスの母親は、皆に、愛されていたんだ。
「エリー、庭に綺麗な花が咲いているぞ。一緒に見に行かないか?」
転生に気づいてから表情が消えたエリザベスに根気強く話しかけるルイス。
「お茶が入ったぞ。一緒に飲もう」
いつも笑顔の、ルイス。
「••••••••••••て」
「ん?」
「••••••••••••どうして、エリザベスを愛するの?」
「?家族を愛するのに理由が必要か?」
小首を傾げ、即答した、ルイス------兄。
俯くエリザベスの頭を優しく撫で、城の外に広がる都を見た。
「美しいと思わないか、エリー。母上はこの美しい国を愛し、慈しみ、この国で、死んだ」
最後の言葉が詰まったのは聞き間違いではないだろう。
「俺は優しい母上が大好きだ。尊敬できる父上が大好きだ。エリーが大好きだ。家族が大好きだ。だから俺は、家族としてエリーを、この国を笑顔溢れる国にしたい」
それが俺の夢だと、兄は笑った。
「だから俺は常に笑顔でいるって決めたんだ。誰かを笑顔にしたいんだったら、まずは自分が笑顔にならなきゃな」
白い歯を見せ、無邪気に笑った兄に------限界だった。
防波堤が決壊するように泣き出した"私"は、慌てるルイス------兄、と言っていいだろうか?------に全てを話した。
前世のこと。
自分はもう、貴方が愛していると言ったエリザベスではないと。
「エリーはエリーだろ?」
果たして、彼から帰ってきた言葉は簡潔なものだった。
「前世の記憶を持っているとしても、それを含めて全てがエリーだ。何か問題があるのか?」
------------------成る程。
"私"であり"わたくし"は、愛されている。
「------------ありがとう、お兄様」
涙と鼻水でグチャグチャな顔を見られたくなくて、俯いたままお礼を言った。
聞こえただろうか?泣きすぎてガラガラになった声で伝わっただろうか?
「愛してる、俺のエリー」
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「•••••••••いや、いやッ!お兄様、目を開けてくださいッ!!わたくしを、独りにしないでください•••••••ッ」
地面に横たわる最愛の兄。
赤い液体で服が汚れることも気にせずに兄に縋り付く。
突然だった。飛んできた矢。兄の焦った声。突き飛ばされる身体。上に伸し掛かる兄の身体。
毒矢を放った賊は護衛が取り押さえた。
冷たくなっていく兄は、
「••••••あいし、る••••••エリー••••••••」
妹の頬に手を伸ばし、力なく笑った。
「わたくしもっ、わたくしも愛していますッ!だから、逝かないで、ください••••••」
一度も愛していると言ったことはなかった。
最初で最後の"愛している"がこんな形になるなんて。
賊を雇ったのは、王妃だった。
昔から側室だった母を邪魔に思っていた彼女は、母亡き今、今度は彼女の忘れ形見であるわたくしたち双子を殺そうと思ったらしい。
本当に醜い人だ。
わたくしは兄の意志を継ぐことにした。
兄の形見"黒い髪飾り"を身に付け、わたくしは立つ。
兄の仇を殺し、国王となり、国を導く。
わたくしにできるだろうか?
そんな疑問が頭をよぎる。
できないではなく、"やる"のだ。
それがわたくしの全てを愛してくれた兄に対する恩返し。
全てが終わったら、わたくしも------••••••
最愛の兄と同じ緑色の髪を揺らし、同色の緑眼に強い意志を宿した王女は、執事とともに、狂気の道を駆け抜ける。




