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身勝手な願いの結末は、幸せか不幸か  作者: 氷雫月
第二章 "望み"と"闇ギルド"

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王子の望み

遅くなり申し訳ありません。

今後もこのような投稿が続くかと思いますが、ご理解の程、よろしくお願い致します。


五歳の時。正確には五歳十ヶ月と二十二日の時。

初めて異母兄に会った時のことを、私はよく覚えている。

天使の輪が浮かぶ美しい黒髪を風に揺らし、王族の証である金色の瞳を戴いた少年------アーサー・フォン・ウィクトリア。

自分を見たまま固まる私------異母弟------フィルクス・フォン・ウィクトリアに彼は、優しく微笑んだ。大丈夫だよ、と言っているようだった。

私は、今の自分にできる最高の笑顔を返した。うまく笑えていただろうか?

その日から私達は時間の許す限り共に過ごした。勉学に剣術、護身術とを共に学んだ。

私は兄の笑顔が大好きだった。


ある時、私には二人分の記憶があることに気づいた。

『地球』という星の『イギリス』という国で執事として働いていた成人男性の記憶を。

イギリス王家に仕えていた私は、当時敵対していたテロ組織の暗殺者から主人------国王陛下を庇い、死んだ。

後悔は全くしていない。むしろ好ましい死に方だった。敬愛する主人を守り、死んだ。それは執事にとって誇るべきことであり、誉れだろう。独り自室で自画自賛した。

同時に思う。今世でも悔いなく死にたい。

できるのなら、兄に仕えたい。

兄のために生きたい。

兄のために死にたい。

•••••••••できるのなら、だが。

この望みが叶わないことは、分かりきっていた。

兄は第一王子。

兄は王位継承権、第二位。

兄は、侍女------妾の子供。

私は、王妃の息子で王位継承権、第一位。

同じ国王の血をひいていても、母親の身分が邪魔をする。

私が王になりたくない。兄の方が相応しい、

といくら言っても覆ることのない大きな壁。

だから、私は-----------••••••



======%======%======



『イラの森』と呼ばれる魔物の巣窟に爆発音が響いた。

ヴァータス王国との国境に面した町の視察の帰り道。瓦礫とかした元馬車の側に立ち、視察に同行した護衛官に護られながら、白金の髪に金色の瞳を持った少年------フィルクス第二王子殿下は、この事態を無感情な目で見ていた。

「で、殿下ッ、お逃げくださいッ!」

「我々が時間を稼ぎます、お急ぎくださいッ」

鎧に身を包んだ騎士が叫ぶ。

知性無き獣が咆哮をあげた。

背中に大きな翼を戴き、鋭い犬歯を今は唾液と血液で汚した双頭の虎------アンフィスバエナ。イラの森という大陸屈指の危険地帯------魔境に生息する最強モンスターの一角である。大きな口から毒息を吐き出し、立ち向かう騎士達を弱らせていた。

「《尊き火の精霊よ、応えよッ!------ヘルブレイズ!》」

「《あまねく風の精霊に命ずッ!------ウィンドストーム!》」

二人の魔法使いが同時に省略詠唱、火属性の火球と風属性の竜巻とが合わさった《合成魔法》魔物に向かう。

その威力は並ではない。王子の護衛に就くということは、王国でも上位の実力者ということだ。この生死を賭けた戦いの中で、上位魔法を詠唱省略で放つことができたことが、何よりの証拠だろう。

火球を巻き込み更に荒れ狂った竜巻が、闇から生まれたモンスターに炸裂した。衝撃で周りの木々が根本から折れてしまったようだが気にしている暇はない。

この威力なら、いかに最強の一角であろうともひとたまりもないッ!------と誰もが思った。他ならぬ、フィルクス以外は。

アンフェスバエナの咆哮が、燃え盛る炎を吹き飛ばした。------無傷、だった。手足の一本、体毛の一部さえも燃えていない。完全な、無傷。

驚愕の余り固まる護衛達に、フィルクスは公平で、冷酷だった。

("これら"に、兄上のことを任せられるわけがない)

フィルクスは素早く決断し、躊躇いなく行動した。不要な物達を消す(・・・・・・・・)ために。


「《顕現せよ》」


フィルクスが呟いた。呟いただけにも関わらず、その一言には、確かな"力"が宿っていた。目の前の"死"の体現から一時目を逸らし、護衛官達の視線が少年王子に向く。

フィルクスは火属性の上位属性------火炎属性の更に高位魔法に属する《広域殲滅魔法》を発動していた。

"護衛官ごと"魔物を消し飛ばす------いや、全員を巻き込むわけにいかない。ある程度"死体"を残さなければならない。アンフェスバエナにやられたと思う傷を負わせて。

全力を叩き込むことはできないため、詠唱省略で魔法を行使する。

突き出した右手に赤い光が集まる。圧縮されていく精霊に、護衛官の一人------この中で魔法に最もたけた男が------今更フィルクスの行使する魔法が何か分かったのか------何かを叫んだ。しかし、フィルクスの耳にその声は届かなかった。

「《ベルセルク》」

一本の不確定な槍となった火の精霊。揺らめく槍を握りしめ、腕を振り上げ、フィルクスは無造作に振り下げた。

------------刹那。

魔物と、魔物の近くにいた護衛官数名が、消し飛んだ(・・・・・)。文字通りの意味で消し飛んだのだ。炎の槍は触れたもの、掠ったもの、影響下にいたものを塵にした。

驚愕からか、言葉になっていない声を出す護衛官達に構わず、王子は、

「貴方方の役目はここまでです。今までお疲れ様でした。ゆっくりと、お休み下さい」

素の口調で礼を言い、丁寧に頭を下げた。

鮮やかな赤い花弁が、闇に咲いた。



======%======%======



「呆気ないことです」

呆れた。心底呆れた。呆気ないとはこのことだ。

フィルクスは護衛官、いや、元護衛官達を見下ろしながら言った。

アンフェスバエナの牙や爪によって切り裂かれたと思える傷を"意図的"に、しかも戦闘中に付けるというのは難しい。フィルクスはそのことを今、身をもって知った。

黒い地面に転がる無残な死体達。

頭部が潰され、首無しとなった騎士。

腹部を裂かれ、消化器系の内臓が外に溢れた魔法使い。

その他、詳しい解剖でもしない限りは魔物にやられたと思う仕上がりとなっている。

さて、最後の仕上げだと、フィルクスは左手に持っていた短剣を右手に持ちかえた。そして勢い良く、躊躇なく、自分の左腕に(・・・・・・)振り下ろした。

「------------ッ!!」

鮮血が散った。

どうしても自分------フィルクス・フォン・ウィクトリアの左腕が必要なのだ。王位継承権第一位である自分が死ねば、兄が王太子のなれる。しかし、本当に死ぬ訳にもいかない。最愛の兄を傀儡王にしようとする輩が出てくるだろう。それを陰で排除し、フィルクス自身も力を手に入れる。

王族が手を出しにくいもの。それは、物理的な力だ。正確には、冒険者として活動する者達だ。

彼らは己の力のみで生活費を稼いでいる。つまり、公の場で力を披露しているということだ。つまり、実力を隠さず、大陸中にその噂は届く。

誰がどこの国と懇意にしているなどといったことも、ほぼ噂レベルだが、重要な情報として広く伝わる。

何が言いたいかというと、実力を知られた冒険者を国は自国に引き込みたがるのだ。爵位を与えたり、貴族と結婚させたりして。

••••••脅すなんて自殺行為だ。

過去、恋人を人質に取られて怒り狂ったAランク冒険者が------小国だったが------国一つ壊滅させた例もある。

兎も角、フィルクスはそれを"利用"する。冒険者となり、陰での影響力を得て、賢王となる兄を助ける。それがフィルクスの望みだ。

賢王となる、と断定していったが、フィルクスに中で、最愛の兄が賢王になることは、一片の疑いの余地もなく、確定事項なのだ。

腕の切断面が歪になるように、何度も異なる方向から刺す。獣に噛み千切られたように見せるために。

そして、血がべっとりと付いた短剣を腰の鞘に戻した。

血振りをしている余裕はない。あらかじめ感覚神経を鈍らせる薬を服用していたが、激痛で今にも意識が飛びそうだった。だが、悠長にしている暇はない。ゆっくり深呼吸をし、残った右手で部分的に繋がっているだけの左腕を掴んだ。唇を噛み締め、肉、骨、神経、筋肉を、力任せに引き千切った。

傷口から、千切った腕から血液が噴き出す。それは白かった服を赤黒く染め、フィルクスの足元に血溜まりを作った。

ズボンのポケットから取り出した白い、清潔な布で腕をキツく縛った。

簡単な応急処置だが今は魔力を無駄使いするわけにはいけない。これからこの魔境を、満身創痍な状態で脱出するのだから。

ズキズキ------生易しい表現だが------と痛む傷口を抑え、正規詠唱を行う。こんな状態での魔法の行使は自殺行為だが、やるしかない。息を名一杯吸い込み、力を振り絞る。

「《時間と空間の精霊よ。我が声を聴けッ》」

ここはイラの森だ。魔力の気配を隠す必要はない。全神経を魔力と座標の制御に向ける。

「《------テレポート!》」

フィルクスが転移し、生者がいなくなった襲撃現場に残された左腕。

なぜ、左腕が必要だったのか。

それは死を偽装するためだが、もっともたる理由は、身体の一部を残すことで自分が生きているという可能性を消すため、というのが一つともう一つ。それは------------

護衛官の死体ごと全てを獣の胃袋の中に入れても良かったのだが、それはしたくなかった。訳は、フィルクスの残した左腕の手首に嵌ったシンプルな"ブレスレット"。最愛の異母兄から御守りと貰ったそれを、最後に、できるだけ綺麗な状態で兄に返したかったのだ。

馬車の残骸と一緒に放って置いても良いかもしれないが、遺体は綺麗に無くなっているのにブレスレットは綺麗に残っているというのは不自然なため却下した。

たかがブレスレットだろう、という者もいるだろうが、フィルクスにとって敬愛する兄から貰ったものは、少なくとも、自分の腕よりも大切なものだ。•••••••••頭のネジが何本か飛んでいるとしか思えない思考回路だが。



フィルクス・フォン・ウィクトリア第二王子殿下は魔物に襲われ死亡。襲撃現場からは左腕のみが見つかった。周りに飛び散り、地面に溜まっていた血液は魔力反応からフィルクス王子本人のものと確認された。その出血量からその他の肉体は魔物に食べられたと推定され、誰も王子が生きているとは考えなかった。

棺には左腕のみが入れられ、"奇跡的に"原型を留めていたブレスレットは異母兄------第一王子殿下の左腕に嵌められ、彼は片時もブレスレットを外そうとはしなかった。肌に離さず、まるで、それに最愛の異母弟の温もりを感じているように。

葬儀には多くの平民も押しかけた。誰もがその目に涙を浮かべていた。

【賢王の卵】と謳われた異母兄弟。片翼を失った兄王子は、果たして上手く飛べるのか。

弟王子は問題ないと断じた。フィルクス王子は死んだが、アーサー王子の弟は死んでいない。陰から彼を支えてみせると。

彼は堅い決意を、再び心に刻んだ。





伏線があからさまかもしれません


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