半端者は気づかない
大変、遅くなりました。
まだ太陽が沈んでいない時間。
ヴァータス王国中央教会の奥に設けられた最高司祭の執務室。その部屋の豪華な調度品の一つであるソファの上で身体を重ねるロバートと若い女。
女が着ていたと思われるメイド服が床に落ちていた。いや、元メイド服が散らばっているといった方がいいだろう。
細かな刺繍が施された絨毯には白色と黒色の布地が散らばっていた。一つ一つを組み合わせていけば、白色はエプロン、黒色はワンピースになる。無理矢理引き裂いたことが容易に想像できる惨状だ。
ロバートが腰を振る度、女は淫らな喘ぎをあげ、目から滴を溢していた。その涙は生理的なものか、悲しみからか。
メイドを強引に、かつ乱暴に抱くロバートの顔は苛立ちに歪んでいた。
(あの役立たず共めッ)
ロバートは内心毒づいた。
先程部下からもたらされた緊急の報せ------『イラの森に潜伏中だった戦闘部隊との連絡が途絶えた』。
イラの森でも日常生活を送れる猛者が集められたフェデスの最強戦闘部隊。彼らとの連絡が取れなくなった。つまり、死んだ。
フェデスの組織構成上、権力------ロバート達を物理的に守る者がいなくなった現状は非常事態以外の何者でもない。裸と同じ。
ロバートがマスターの座に収まって以降、ギルド分裂は加速する一方だ。自意識が強く、自分の非を認めないロバートは全てを無能な部下達の所為にしていた。
「------ッ、クソッ」
ギルドが纏まらないのは無能な部下の所為。
思い通りに事が進まないのも部下の所為。
自分の才能が活かせないのも部下の所為。
何かもが部下の所為。
無意識の内に腰の動きが早くなっていたらしい。女が苦しげに呻いた。
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ソファの上であられもない姿を晒す男女にロストは嫌悪感を抱いた。
(時間や場所を考えないとは••••••流石醜い獣ですね)
気配を完全に消し、誰にも悟らせずに教会に侵入したロストは"ある物"を探していた。それはこの執務室の何処かにあるはずだ。
無駄な装飾が多い、正直鬱陶しい机の引き出しを開ける。右側に二つ、中央に一つ設けられた引き出しを探ったが"それ"は無い。本の一冊一冊から紙の一枚一枚まで捜したがやはり無い。
ふと、本が収められている棚に目がいった。何かがおかしい。不自然だ。
注意深く見てみると、上から三段目に並べてある百科事典。『しぁ〜しぅ』となっているがロストの記憶する限り、『しぁ〜しゅ』のはずだ。
その巻を手に取る。軽い。分厚い表紙を捲ると案の定"探し物"が入っていた。嬉しいおまけとして、妖しい紅い光を放つ棒も。
思わぬ大収穫に頬が緩んだ。"それら"懐にしまうと部屋の扉から出て行く。
女のカントに欲を吐き出したロバートに嘲笑と憐憫の視線を浴びせながら。
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その日の深夜。ロストは変わらず、豪華な部屋にいた。勿論、場所は違う。あのボンボンの部屋ではなく、優美で趣味の良い装飾品に飾られた己が主人の私室である。
ロストはカーペットの敷かれた床に跪き、主人の言葉をじっと待っていた。
「流石ね。良い仕事をしてくれたわ」
ロストの主人------エリザベス王女殿下が満足気に言った。
「勿体なき御言葉です」
ロストは胸に広がった揺らぎを隠し、穏やかに答礼する。ここで声をあげ、大袈裟に振る舞うなど従者失格だ。
「謙遜することはないわ。だって------」
エリザベスが手元の紙束と紅い光沢を放つ棒に視線を戻した。
「中央教会と闇ギルドの癒着の証拠。おまけに"契約の魔石"まで手に入れきたのですからね」
月明かりを反射する、中指くらいの長さの魔石------"契約の魔石"。
魔石を主人と従者の体内に埋め込み、主従契約とする特殊な魔法。魔石自体はとても希少で危険な物の為、市場どころか闇市場にすら出回ることはない。発見され次第、国の管理下に置かれるのが常だ。それも秘密裏に。
その最もな理由が、
「私にNo.04、クープと名乗った彼女が奴隷であると思われます。自我が残っているとは考えにくいですが••••••」
"奴隷契約"に使用されるからだ。
貴族間での契約や国家間での条約の締結に使用される魔法契約書に契約内容と当人達のサインを書くことで魔法が発動、絶対の契約となる。これには拒否権が存在するが、体内に埋め込まれたらどうすることもできない魔石は段違いに危険な代物なのだ。
エリザベスがフフフ、と小さく笑った。
「そう言えば、ロスト。あなたの新しい名前と身分が用意出来たわよ。この件が終わったら正式にそれを名乗りなさい。ちなみに名前を考えたのはわたくしよ」
「光栄の極みに御座います、我が君」
バッと顔を上げそうになるも、寸前のところで耐える。従者たる者常に冷静沈着であるべし。深々と頭を垂れた。
フフフ、と再び笑ったエリザベスは翠玉に輝く双眸を西に向けた。
「ショーダウンは近いわ」
妖しく、美しく嗤う己が主人にトクン、と胸が高鳴った。
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