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18話:高反射率

更新がものすごく滞っています。

年末年始は忙しいですね;

一度灯花さん達とは解散し、それぞれに与えられた部屋で何事もなかったかのようにくつろいでいた。

簡素なベットに机、本棚には良く分からない文献やら小説やらが並んでおり、もちろん窓は無い。

ここは地下の群青の雌鳥のアジトなのだから当たり前なのだが、それでも息苦しく感じてしまう。

ふと、机の上に置いた通行石(トゥラフィック・ストーン)に目をやる。燃え上がるような赤だった。

現実世界の、しかも学校の資料室にあったという事実が、俺の頭の中を占領していた。これは学校の関係者にこの世界に通じる者がいると言うことである。それも間違いなく教師だろう。何故なら、あの資料室に好き好んで入る生徒はいないし、鍵はかかっていないが普段は立ち入り禁止なのだ。それに、その資料室で悠斗が見つけた桁のおかしい金額請求の通知書。品目は鏡となっていたが、アレは絶対魔境(イビルミラー)だろう。取引したのは学校の校長だとして、ではこの通行石の持ち主は校長なのだろうか。

あり得ない話ではない。うちの学校の校長はよく出張という名目で出かけていることが多く、全校集会などの集まりでも滅多に姿を現さない。新入生の入学式、そして最高学年の卒業式ぐらいにしか顔を出さない特別怪しい校長なのだ。

しかし、逆に学校に居ないのであれば、どうして資料室に通行石があったのかが分からなくなる。

普通に変人な校長という俺の認識が間違っていないのだとしたら、教師陣の誰かがと言うことになるのだろうか。

分からない。十分な証拠もない状況では、考えること自体が無駄なような気がしていた。

あの資料室は鍵が開いているのだから、その人物は誰にでも当てはまるというわけなのだ。

それは俺であり、悠斗であり、莉瑚であり、詠センセーでもあるかもしれないのだ。

結局のところは分からない。

ふと、通行石に目をやると、その異変に気が付いた。

すでに、現実世界へと帰るためのエネルギーが溜まっていたのだ。

「おいおい……どういうことだよ」

一人でそう呟いて、手にとってまじまじと眺めてみる。見間違えなんかじゃない、確実に溜っていた。

俺が初めにこの世界に来て通行石の説明を灯花さんから受けた時、たしか灯火さんは『緑色の通行石なら約3日でエネルギーが溜まる』と言っていた。それがこの通行石はほんの少しの時間この世界に居ただけでエネルギーが溜まってしまっている。

いつでもこちらの世界に来ることができ、いつでも現実世界に戻ることが出来る。

そんな考えが頭に浮かんだ。間違ってはいないだろう。

だが、そう考えるとやはりこれは恐ろしい代物なのではないのだろうか。

こちらの世界と現実世界との時間のズレは3日。こちらの世界で3日程度経つと、現実世界では一日しか経っていないのである。

通行石のエネルギーを溜める関係上、必ずこちらには3日以上滞在しなければならないが、この通行石であれば好きな時に帰ることが出来る。

言い方がおかしいかもしれないが、こちらの世界と現実世界を両立させることが出来るのだ。

真っ赤に燃える通行石をジーンズのポケットに仕舞い込み、ベットに転がる。

ギッ、とベットが軋む音が響き、部屋には静寂が訪れる。

考えることはたくさんあった。

自分の能力についてもそうだった。感づいたのはあのハーフの少年と戦った時だった。

魔眼(イビル・アイズ)。この能力は人を消滅させることはできない。

もっと能力的に解説するのであれば、能力に携わっていないものを消すことはできない。

それは人体であったり、身にまとう衣服だったり、だ。

思い返してみれば、この力によって人本体を傷つけたことは無かったはずだ。

最初に魔眼が発動したと思われた時、葉絡(ばから)元副団長の腕を切り落としたのは灯花さんだった。よって俺は肉体には干渉していない。次に、廻折研究室で大海原(おおうなばら)と名乗る槌を持った少女と戦った時、柱という物質を破壊したがこれも同じく肉体には干渉していない。そしてキリカの『白銀の閃光(グランドクロス)』を受けた時。同じく。

そして理解するきっかけを得た先ほどのハーフの少年との戦い、彼の腕を見たが破壊はされず、そこに宿ていた能力のみを一時的に破壊した。

これらから推測するに、やはり人体には影響がないように思われる。

もし、そうなのであれば誰かと共闘する際には巻き込みと言った心配事は解消される。

ゆえに、もっと役に立てるのだ。

ベットから飛び降り、首を回す。

やはり何かをしていないと退屈でならなかった。

と、その時。ドォォォン! と一際大きな音が響き渡った。

すぐに部屋のドアが開かれ、怜那が姿を現した。

「敵がこのアジトの上で暴れているみたい。アジトの存在は知られていないみたいだけど、このままだとアジトの耐久が持たないから地上に出て追い払ってくれだって!」

こういうときの怜那は妙にはっきりと詳しく状況を説明できる。

これを普段からやってくれれば俺も助かるのだが。

「何か、失礼なこと考えてるよね」

「いや、そんな事は無い」

「妄想してる場合じゃないんだよ! 行くよっ」

そう言って怜那は俺の腕を引いて走り出す。

もう慣れたその行動に、俺も歩幅を合わせてついて行った。




地上では男女の二人組が一人の男を追いまわしていた。一方的な狩りにしか見えないそれに、俺は小さく舌打ちをした。

二人組を見据える。男の方はゴツイ体つきをしていて、弓を構えている。しかし、彼は肝心の矢を持っていない。もう一方の女の方は、赤みがかった肩までの短めの髪をしていて、手に持っている半端な長さの刀を振り回していた。

追い回されている男は、青い血を流していた。血無し(ノン・ブラッド)だ。

「おいお前ら! 何してんだ!」

地上に上がった理由をこの短時間で忘れていた俺は、思わずそう声を上げてしまった。

「ちょっ、あんた! いきなり何言い出すのよ!」

怜那に咎められ、はっと我に返るが、交戦中の彼らはすでにこちらを見ていた。

その中から血無しの男がよたつきながらも走ってきて、俺達の前で倒れる。

「た、たすけて………。ころ、される」

見れば背中に大きな傷を負っていた。

刀で一薙ぎした痕だ。おそらくあっちにいる彼女の攻撃のせいだろう。

「もう、あんた余計なことしすぎよ! 私たちはただ追い払えば良かっただけなのに。この状況じゃあ戦うことになるじゃない!」

怜那が刀を構え、敵から目を離さないままそう言った。

俺は男に安心するように伝え、向こうにいる二人を睨む。

二人は一度顔を見合わせ、そしてこちらに向かって歩いてきた。歩きながら、言葉を発する。

「なんなの? 私たちの仕事の邪魔をしないで欲しいんだけど?」

「そうだ、こちらは急いでいる。早急に立ち去れ」

敵対する二人は少しばかりイライラしているようだった。言葉からそれは十分に伝わってきた。

「そう言われてもこっちも引けない理由があるんだ。とりあえず今日のところは帰ってくれないか」

「そうね、または私たちに倒されて帰らざるを得ない状況になるか」

珍しく怜那が挑発をしていた。何か思う節があったのだろうか。

男の方は息をつき、女の方に目をやる。彼の片方の目は縫われていて開けられないようになっていた。

「なんなの? あまりこっちを見ないでくれる、気持ちが悪い」

「言葉遣いがなっていないな、一応俺の方が階位は上だ。早急に取り消せ」

「はっ、凹凸コンビに一人で苦戦していたのはどこの弓使いなのか、私がいなきゃ死んでたくせに」

「………アイナ、やはりお前とは相容れないな」

「なんなの? 気安く名前を呼ばないでよね。 イルだなんて名前しておきながら矢を射るところ、私は見たこと無いけど? 名前負けしてるわよね」

「………貴様とはいつか決着をつけないといけないようだ。出来れば早急に」

「なんなの? 勝てると思ってるの? そんなことより、今はあの男が必要なんでしょ?」

互いに罵り合い、互いに気分を悪くさせている。

そのモヤモヤとした怒りが、こちらに向けられたのが分かった。

「邪魔をしないでもらいたい、早急に、だ」

「なんなの? もしかして私たちが一方的に攻撃していたから悪者だとでも思ってるの? だとしたら屑ね。トモ様以外の男はやっぱり屑」

トモ、という名前に心当たりがあった。

いつかに灯花さんと戦っていた空間を移動するあの青年だ。

「こいつら……赫逢騎士領団かよっ……」

「だからなんなの? 早くそいつをこっちに引き渡しなさいよね、出来ないなら」

ピッ、と俺の頬に一筋の切り傷が発生した。つぅっ、と赤い血が流れる。

「殺すからね」

彼女の殺気は本物だった。しかし、あの距離からどうやって傷を。

そんな事を考えている内に怜那が走り出していた。不自然な長さの剣を持つアイナと呼ばれる少女に向かって疾走する。

ガキィン、と刀同士が打ち合う音が響き、鍔迫り合いが始まる。

「っ……なんなの? この女。 馬鹿みたいに力が強いじゃないっ」

力の均衡が破れ、アイナは吹き飛ばされる。そこへすかさずイルが矢を放った。その数10本。

その中の半分を俺が魔眼で消し、残りを怜那が刀で叩き斬った。

一度怜那は距離を取り、俺と合流する。

「何? こいつら、全然強くない……。本当に赫逢騎士領団なの?」

怜那のその言葉にしゃがれた声で血無しの男が答える。

「階位九と七のコンビだ………。決して弱いわけじゃない。あんたらが強いんだ……」

「階位九と七? 下から数えた方が早いじゃない。 そんなのに負けるわけないでしょ」

怜那は自信満々にそう言うが、俺は何か嫌な予感がしていた。

アイナとかいう女の子が吹き飛ばされるのは仕方がない。怜那は能力『強化の神秘(ミステリー・オブ・ストゥレンクス)』で身体能力が大幅に強化されているのだから。しかし、あのイルという男の方、矢を放つだけで他に何も行動を起こしていない。

ただ矢を放つことしか出来ない男が、赫逢騎士領団に居るのだろうか?

「なんなの? 考え事? 戦いの最中にずいぶん余裕なのね」

ブシッ、と俺の肩から鮮血が吹き出した。

切られたのだ。しかし、アイナは怜那に吹き飛ばされて遠くにいるはずなのに……?

数十メートルも離れた先に笑っているアイナがいた。俺が混乱しているのを見て、笑っているのだろう。

「アイツ、変な能力持ってるわね。何か分からない以上、危険ね」

怜那が冷静にそう呟いたのを俺は静かに訊いていた。

分からないなら、魔眼をとりあえず発動してみればいい。そう思った俺は、アイナを睨みつけて魔眼を発動させた。

視界が一瞬赤く染まり、よく分からない文字列が並んだ後に何かがひび割れる音がした。

「なっ……なんなの?」

目を見開いている彼女の手には、2メートルはあろうかという細長い刀が握られていた。

そして、俺の足元には短剣がたくさん転がっていた。

「物を透明にする能力……か? からくりが分かればどうってことはないな」

俺が切られたのも、その斬撃が見えなかったのも、彼女が遠くから攻撃出来たことも全て納得がいった。

が、アイナの能力が割れた瞬間、イルが動いた。

何も番(つが)えることなく弓を引き絞り、怜那を狙っている。

「怜那っ!」

俺は咄嗟に叫んだが、遅かった。

ビイィィン、と弓の弦が弾かれ、いつの間にやら無数の矢が怜那に向かって飛来していた。

アイナの能力を殺したせいか、俺の魔眼はすぐには対応してくれずに怜那には矢が2,3本突き刺さる。もちろん、他の矢はすぐに撃ち落としたが。

「つっ……うぅ」

腕や腹に刺さった弓を引き抜き、すぐにイルに向かって肉迫する怜那。血液が軌跡を描き、怜那は舞う。

矢を番えさせる暇を与えないように怜那は間髪入れず刀を振り回す。イルはそれをヒラリヒラリと難なくかわしている。その間にも怜那の傷は本当に少しずつ、回復していく。

「なんなの? その程度でもしかして満足してるのかな、魔眼」

怜那に気をとられていたせいか、いつの間にかアイナがこちらに肉迫してきていた。

「トモ様以外の男に近づくのは鳥肌が立つから嫌なんだけど、殺す時は仕方ないよね」

彼女は何も持っていないはずの右腕を振り上げている。おそらくそこには俺を殺すための武器が握られているのであろう。俺はその位置に向かって、魔眼を発動させる。

しかし、一向に破壊音は響かない。

代わりに、彼女の声が聞こえた。

「やっぱり、トモ様以外の男は屑ね」

ドウッ、とアイナの蹴りを鳩尾にもらい吹き飛ばされる。地面を転がってようやく止まる。

顔を上げたそこにはすでにアイナの姿がある。

「馬鹿ね。私の能力を解析したつもりだった? 私の能力はね、隠すことに意義があるんだけどそこで思考停止しちゃったらただの馬鹿。別に隠さなくてもいいんだよね。隠しているか隠していないかが分からない、それが私の能力の神髄なの。ほら実際、今私のどちらの手に武器が握られていると思う?」

彼女は俺の目の前で二つの手を出している。もちろん、分からない。

魔眼を発動してもいいだろうが、そんな隙をこの女は見せてくれるだろうか。

俺と同い年かそれ以下にしか見えない彼女は、どうしてこの世界に居るのだろうか。どうして赫逢騎士領団などに属しているのだろうか。

現実世界であれば、決してあり得ないようなシチュエーション。

同い年近くの人間同士が殺し合う。そんな世界。

「なんなの? あんた、その眼。何をそんなに思い詰めることがあるの?」

「どうして、赫逢騎士領団なんかに居るんだ……?」

「はぁ? 戦いの最中で何を言ってるわけ? なんなの? 頭でも打った?」

「………」

どうかしていた。何を思ったか俺は、この子とは戦わなくていい気がしていたのだ。

敵であるにもかかわらず、ついさっきに蹴飛ばされたはずなのに。

何かを彼女から感じていたのだろうか。それとも、俺が単に頭がおかしくなったのか。

断然後者の方が可能性はある。彼女がそう言ったように、俺は頭を打ったのかもしれなかった。

俺は立ちあがってアイナと相対する。

彼女は少し口元を歪めて、距離をとった。両手に何かを握るようにして、俺を睨んでいる。

いつ踏み出そうかとタイミングを窺っていたその時、俺達の横で大爆発が起きた。

理解はできなかった。鼓膜が震えるばかりで、頭の中は真っ白だった。

だが、かろうじて落下位置は見えた。アイナと共に吹き飛ばされた俺の目に映ったのは、反射率100%のそれ(・・・・・・・・・・)だった。

視界はすぐに銀色に染められた。



怜那は大爆発の起きた方向を振り返った。同様にイルもその方向を見ていた。

玲夜とアイナはそこには存在しておらず、代わりに黒のドレスを纏った女性が立っていた。

その女性はまるで歌でも歌うかのように軽やかに言葉を紡いだ。

「私たち愛心家族(ファミリー)の兄に傷を負わせたのはそちらの二人だったかしら?」

怜那は彼女の言っている意味が理解できなかった。対して、イルはしっかりと理解していた。今の彼女が少しばかりの誤解を含んでいることも、これから起きることも全て理解していた。

「仕返し、と言うわけではないのですけど。私の愛を(・・)受け取ってもらえます?」

現実世界で会えば間違いなく貴婦人にしか見えないような仕草で、彼女は殺気を纏う。

先ほどまで戦っていた敵に対して、さらに大きな強敵が現れた。


自然と怜那とイルの二人の取る行動は決まっていた。















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